「散々な言われようと思わない?ティエ」
「自業自得だよ。ユエ」
2人は顔を見合せて、そんなこと言い合ってる。
「え、そんなに傍若無人なの、ユエ」
「彩蝶まで……一応、俺の名誉のために言っておくけど、そんなことしてな……い、と思うよ」
「間があったね」
「心当たりがあるんだ」
にこにことティエと彩蝶に詰められ、
「というか!そんなので、調律者を人間と判断するのはめちゃくちゃすぎる!」
ユエは夜霧を指差し、怒った。すると。
「でも、ユエ。私達、肉体が変わったとしても、魂は神様のままなんだよ?ユエ、言う事聞かせられるよね。だって、ユエの身体を分裂して、他の神様って生まれてるじゃない」
横で、ティエがにこにこ笑ったまま、冷静に突っ込んだ。
「だから、調律者が存在している時点で、ユエには存在がわかっていないとおかしいんだよ。これ、ユエが私に教えたことでしょう?」
「…………そうだったね……」
ティエの真っ直ぐな言葉に、ユエは頭を抱えて、そう呟いた。
流石、ユエが生み出した、ユエといちばん長い時間を共にしている存在なだけある。
創世神の扱いも、お手の物か。
「朝霧、夜霧」
「なんでしょう、ティエ」
「なあに、ティエ」
「そして、皇」
「はい」
「3人で協力して、時の泉以外からその空間に繋がるであろう場所や人を探してくれる?」
「そんな所、あるんでしょうか?あるなら全然構いませんが……そもそも、俺にできることはありますか?」
ティエからのお願いに、皇が顔を曇らせる。
「あるわよ。ねぇ、夜霧」
「ああ。あるよ。神への領域への道は、一定の条件が揃えば、また、その領域の支配者の気持ち次第で道は開かれるものだ。時の泉が混沌と化しているのは、常に変化を起こすから。同時に、その飛び込んだものによっては、どこまでも過去に、どこまでも未来に飛ばされてしまう。だから、帰ってくることも容易ではない。代償を払うことで帰って来れるのは事実だが……その代償の形も様々だと言われている」
分からない場所だからこそ、別の場所から探した方が確実ってことらしい。
ティエは小さく頷きながら、ユエの頭を撫でる。
すると、ユエが。
「調律者がそんなふうに好き勝手してるなら、色んなところでこれまでの根底が覆らない?」
と、呟いた。
「あら、ユエ、怒ってるの?」
「怒ってないよ。ティエに怒るわけないじゃん」
「そう?じゃあ、調律者に怒ってるのね」
「人間だとしたらね。この世界を作り替えるくらいの力を持っていて、俺の支配下にないのは、ちょっと少し……まぁ、俺の自業自得ではあるんだけど。【中途半端】な俺には何も出来ないし」
はぁ、と、ため息をつくユエ。
「今、この場で調律者にいちばん詳しいの、皇だよね」
「ええ、まぁ。そうなりますね」
「さっきの山のような伝言からも大体は察するんだけど、皇は調律者を人間だと思う?」
「人間...では無いと思います。でも、自分で『人間臭いところって中々治らないよね。神になりかけても』って言っていたので、元人間説はあるでしょうね」
皇がそう言うと、凛が声を上げた。
「ずっと話を聞いていて思ったんだけど、椿のおじさん...冬仁郎さんが話していた、俺の“代償”ってさ、皇じゃなくて、あの場にいたのが、皇に扮した調律者ならさ、もしかしなくても」
凛が、続けようとした言葉がわかった。
─分かってしまった。
凛の代償が、【依月】なのかもしれないということを言いたいのだと。
少し時間はずれてしまうが、それはきっと、時間すら超越する彼には関係ない。


