それでも、あなたを愛してる。【終】



─皇が頑張る姿を横目に、正妻は当主と心中。

そして、最悪の真実は、闇の中へ。
......いろはは、永遠に真実を知ることはない。

その歴史に辿り着く前に、皇が取り戻したから。

「朝霧さん...?」『朝霧!』

「どうしたの、いろは」

「いや...泣いてるように見えて」

「えぇ、本当?─でも、泣いてないよ」

「気のせいかな」

「...うん、気のせい」

後ろを振り返るな。

闇を思い出すな。

夜明けを想い、夜明けを愛せ。

─そうでなければ、“朝と生を司る者”として、最悪の結末を迎えてしまう。

彼女を、ひとりにしてしまう。

それはダメだ。だって、契約をしたんだから。

『...朝霧』

最期のときを、今でも覚えているよ。

『私のこと、生き返らせないで』

彼女は切実に、願っていた。

『そして、貴方は生きてね。生きて、あの子を、いろはを、守って...』

泣きながら、力ない手で朝霧の手を握って。

『そばに居てくれて、ありがとう』

朝霧の加護のせいか、彼女は最期、言いたいこと全てを言い尽くすように話していた。

それくらいの気力はあったみたいだが、心拍は弱まり、笑顔は減り、力は抜け、泣いていた。

『愛してるわ、いろは』

赤子の頭を撫でる、細い手を握った。
朝霧が微笑むと、ほっとした顔で眠りにつく。

可愛がってきた子の最期は辛かった。
何度も繰り返してきた経験のはずなのに、彩花が初めてなんかじゃないのに、何故か酷く、とても苦しかった。