「創まりの、愛し子のそばを離れたくなかった神様達は、愛し子が親しくしていた四人の人間に加護を与えた。同時に、愛し子の妻に春が加護を与え、各家は長い時と共に、ゆっくりと繁栄していった。しかし、次第に神々の能力は特別なものではなくなっていった。人間が進化したから、表立って使えるものも少なくなっていき、先祖は血を守ることに固執するようになる。近年まで繰り返された一族間での繁殖は、我々の生命に大きな影響を与えたことも知ってるな?その反動で、今度は外部のものを取り入れることが多くなり、今、滅びの一途を辿ってるってとこだ」
はははっ、と、現状説明をしながら笑った冬仁郎さんは、巻物の一部を指差した。
そこは今、冬仁郎さんが説明してくれたようなことではなく、とある時代のとある当主の独白。
「─この事例が、今、椿家が把握している最初の事件だ」
その内容を、端的にまとめれば。
【誰にも信じて貰えないだろうから、未来に託す。宗家の当主になったら、時を戻ることができるようになる。ただ、どこの時代に戻るのかはわからない】
といった感じだった。
凛が本当に時を繰り返した経験があるとすれば、凛は実際に秋の当主だし、この文に信憑性が出てくる。
「嘘だと、御伽噺だと、誰もが言うだろう。しかし、歴史の陰に隠れて、こういう事例は幾度も見られた。他にも多くの事例を発見した時、血の気が引いたよ。だって、戻るということは過去に、ってことだろう。それは即ち、“今”が変わってしまうかもしれない、ということだ」
冬仁郎さんは眉間を押さえながら、深いため息をつく。
「笑うしかない現状において、当主又は次期当主たる君達がするべきことが本当に“それ”なのかを、1度考えて欲しい。否定はしない。それでも、というならば、援護もしよう。しかし、それによる代償は本当に大きいものになることを忘れないで欲しい」
冬仁郎さんは、優しい瞳をしている。
契の気持ちに寄り添いつつ、道を示してくれているのだ。
自分は依月がいない未来を考えていなくて、依月をなくした今、自分がどうやって生きていけばいいのかすらわからなくて、縋れるものがあるならば、どんなものにだって縋りたくて仕方なくて。
「でもっ、契は依月がいないとダメなことを、俺は知っているんです!俺にとっての翠と同じだ。心に穴が空いたような...引き裂かれるような、そんな感覚になるんです。代償は俺がっ」
「凛」
契は変なことを言い出しそうだった凛を止め、椿夫妻に頭を下げた。


