「─ダメだ!」
「千景」
「契や依月のことを思えば、それが最善かもしれないと思ってしまう俺がいるが!それはダメだ!」
いつも冷静な千景がここまで血相を変えているということは、凛が話した今の話の詳細を知っているのかもしれない。
契が凛の方を見ると、凛は微笑んだ。
─まるで、大丈夫だと言うかのように。
「大丈夫。今度は上手くやるよ、千景」
「お前はそう言って、何回、両親と別れを告げた!?何回、翠を喪い、何回、紫苑の最期を見た!?」
「……」
千景の言葉に、凛は目を伏せた。
─きっと、それが答えだ。
「千景……」
「契、悪い。俺は認められない」
「いや……」
そうじゃない。まだ、頭がついていかないんだ。
このふたりが何の話をしているのか、全く理解が出来ないんだ。
どうすれば良いかわからない現状で、依月のことが気になるのに、依月以外の問題が出てきて。
「─お二人共、落ち着きなさい。契くんが置いていかれています。その勢いは若さゆえかもしれませんが、契くんは何も知らないんですよ」
契が本気でついていけなくて戸惑っていると、百合さんが言葉を挟んだ。止まるふたり。
百合さんが冬仁郎さんの方を見ると、冬仁郎さんは笑いながら、ふたりを元の位置に座らせる。
「─全く。大切な幼なじみのために必死になれるのは、とても素敵な関係性だと思うがね」
「でも、周囲が見えなくなるあたりが、まだまだ子どもだわ。凛くん。あなた、前の苦しみは“管理者”によって止められたの、覚えてる?」
凛が静かに目を逸らす。
「“繰り返す”ことを、悪いとは言わない。基本的に誰にも迷惑をかけないのは事実だし、実際、今、紫苑さんはその旅をしてるもの」
「百合の言う通りだ。否定はしない。余計な投石で、運命が狂うことを神々は厭うから」
冬仁郎さんはそう言いながら、何本かの巻物を広げ、契達に見せてくれた。
「儂らの先祖が遺したものだ」
「これは……」
「今よりもまだ、神への信仰が厚かった時代のものだよ。とある人間が、四人の神に魅入られたことで、四季の家は始まった。春は誕生と豊穣を司り、夏は愛と生命を司り、秋は調和と知恵を、冬は死と再生を司る。─もちろん、知ってるだろう」
訊ねられて、頷いた。
四季の家の宗家に産まれていれば、それは常識中の常識だ。
千景と凛も勿論知っていて、頷いている。


