「勿論。かなり面白い男だった」
「だろうね。楽観的で、生贄制度を嫌い、ユエのことを本気で1人の友人として扱うような、そんな男だった」
「そうだな。そして、お前の言う未来予知が出来る人間でもあった。……あいつが死んだあとの展開は、変わらぬ歴史だろう」
ユエの顔が曇る。
変えることが可能な歴史があるように、
変えられない歴史はどうしても存在していて。
「そうだね」
「……」
「でも、変えられない歴史を無理やり変えてしまうと、未来が崩れるってことだよね」
凛がそう言いながら、顔を曇らせるいろはの背中をぽんぽんと叩いた。
「そういうこと。司宮初代の息子夫婦は殺されて、三姉妹はの上二人は売り飛ばされた。ああ、でも、長女と次女はちゃんと加護を与えて、幸せになれる場所へと導いたから」
「……え」
「君を大切な友人だと呼んでいたよ。国の大災害のとき、救ってくれた人って」
いろははそれを聞いて、泣き出す。
「覚えてたんだ……まだ、幼かったのに」
「流石に、天地がひっくり返るのではないかと言われるほどの大災害を経験したからか、強く記憶に残っていたと。美言の場合、まだお腹にいたし、あの子を同じ道へと導こうにも、綴の存在がある。色々とそこの調節は難しくて、どうにもならなかったけど」
悠生は続けて、「それでも、自分を追い込み、子を一度でも死なせた彼らを美言は許せず、自らの手でその魂の転生の道を絶っているけどね」と、笑った。
「その代償はっ?」
「永久の、四季の家を見守ること。もしもの時は、その引導を渡すこと。家が滅んだその暁に、解放されるよ」
「それで、美言は」
「納得してる。今の君達が幸せになる為に、全力でサポートするって」
悠生の言葉に安心したのか、また、ボロボロと泣き出したいろはを、皇は抱き締める。
「─ここまでの物語の筋書きはね、実はユエが宿る肉体の本来の持ち主が教えてくれたんだ。つまり、結叔父さんがね。すっごく頭が良い人だったから、空間内でもよく、綴の質問に答えてる。叔父さんの筋書き通りなら、お話はおしまい。美言や綴も結ばれて、喪われた子だった美幸も二人の子として還った。今は冬の紫苑が時巡りしているし、この先にある未来のため、その際には微調整が必要になるかもしれないけれど、夏と秋は終わり。ユエを目覚めさせて、四季の家を害する一部の存在を排除して、運命を正しい軌道に載せることは完了した」
悠生はペンを置いた。


