「依月も、顕現出来ればいいんだけど─……」
悠生がお願いすると、黙っていた彩蝶は頷いて、顕現した。彩蝶の場合は、“蝶”である。
部屋の中を舞う色とりどりの蝶を見て、いろはは目を輝かせ、悠生は優しく目を細める。
「君達にも、いるだろう?」
確信持った言い方に、凛は頷く。
「この子でしょ」
凛は、自分の分身たる“それ”を顕現した。
凛の場合は、蛇。
千景は犬。そして、契は蛇の天敵である鷹だ。
「そう。依月は強すぎるから、コントロール出来たとしても不安が残る。そうやって顕現出来れば正直安心なんだけど、難しいだろうね」
「どうして?依月も、氷室の子でしょ?私達と同じ、四季の家じゃない」
彩蝶の疑問は、最もだった。
氷室家は、冬の柊家の第一分家だった。
だから、その家の娘なら、それくらい……。
「何度か試してみたんだけど、難しいみたいで。他にどんな方法があるのか……人間としてなら、最低な選択肢はあるけど」
「え?」
「あるよ。一応ね。……でも、依月はこれを聞いて、『わかりました』とは言わない。絶対」
確信持った言い方に、なんとなく想像した。
多分、契の考えは合っていて、困ったように彼は契に微笑んでくる。
その微笑みから、契は確信を得てしまう。
「強情な妹でごめんねー、契くん」
「よく知ってます」
「だよね。─整理をするとね、元々、運命は終焉を目指して動いていたんだ。四季の家の終わり、引いては、この国は災害で沈む運命だった」
何でもないように話すのは、それを未然に防ぐことが出来たからか。
「俺達の家は、国の中では微妙な立場だろう?それでも、何故存在できているのか。我々が敬うものは刻神様であり、四ノ宮家だ。─それが許されているのは、昔から災害の気配がある度、それを四季の家が治めてきたからだと言われている」
地震、津波、火事……その災害は、多様である。
「だけどね、ユエが寂しさからティエを生み出し、愛を育み、四季の家が生まれて暫く、ティエが四季の家の連中に食べられるまで─…あの夜、ユエが起こした災害だけは、四季の家で防ぐことが出来なかった」
ユエの慟哭は、辺り一帯を更地と化した。
人影なんて、残滓も残さずに。
「ユエは自分を止めたいと願っていたんだと思う。でも止められなくて、そんなユエの前に立ち塞いだのが、司宮家初代当主であり、ティエの祝福をいちばん強く授かった子どもだった」
「覚えている?」と問いかけられ、ユエは間髪入れずに頷いた。


