─氷室悠生、5歳の誕生日。
『─だいじょうぶ?』
そう、悠生が声をかけた先。
悠生の視界に映っていたのは、草むらに隠れた一人の女の子。小さな彼女は体操座りをして、どこかを見ていた。その瞳は暗く、悠生は隣に座る。
『ぼくはね、ユキっていうの。きみは?』
『……』
『かくれんぼしてるの?』
『……』
何も言わない黒髪の女の子。
『……悲しいの?』
悠生はそっと、女の子の頭を撫でる。
『だいじょうぶ。寂しくないよ。僕とお友達になろう?』
彼女の暗い瞳に、笑顔の悠生が映る。
優しい笑顔を浮かべた悠生を見て、女の子ははらはらと涙を零した。
それを見て、慌てた悠生は彼女の涙をポケットから出したハンカチで拭って、
『悲しい時はね、お菓子を食べるといいんだよ!食べに行こ!』
そう言って、女の子の手を取った。
『ねぇ、お名前聞いてもいい?』
走りながら、悠生は訊ねる。
彼女は小さな声で、答えた。
『しのみや、あげは……』
『あげはちゃんね!とっても素敵!』
─これが、後に、婚約が結ばれるふたりの出会いだった。


