─はじまりは、赤子目線だった。
視界に映るのは、今は亡き氷室当主とその夫。

『─ごめんね。叶(カノウ)』

『?、なにが』

『また、何か言われたのでしょう?私が役目を果たせないから……』

『別に、僕は気にしないよ。それより、僕の身分のせいで君には嫌な思いをさせてない?君が氷室家の正当な娘で、当主なのに……僕が、当主みたいな扱いを受けてしまってる』

『フフッ、そんなの、私は気にしないわ。だって、私、本当は貴方に当主になってもらおうと思ったんだもの。貴方との間に子どもが欲しかったし、結局、今みたいに役目を貴方に任せきりになる未来が見えていたから……。辛い思い、してない?』

『君たちがいるだけで、そんなことはどうでも良いよ。僕にとって大切なのは、君達だけ』

そう言いながら、夫は彼女の額にキスをする。
彼女は優しく微笑みながら、

『それは勿論、私もよ。でも、私、やっぱり、この子が落ち着くまではお役目を果たせないわ?』

と、赤子の頬を撫でる。

『じゃあ、表向きの当主になるよ。正式な当主は君のままね』

『もう……貴方がなっていいと言ってるのに』

『駄目だよ。君は、彼らが遺したものをすべて、ちゃんと受け取らなくちゃ。それにね、僕はこれでも、元柊家の人間だから。上手くやるよ』

『……無理だけは、しないでね』

『勿論。─君とママを守る為にも、パパ、頑張るからね』

父親から額にキスを贈られた赤子の声を聞いて、

『今日も元気だ』

と、夫婦は幸せそうに笑った。

『この子が……悠生が、笑っていられる未来を作るためにも頑張らなくちゃね』

そうして、時代が飛ぶ─……。