「…………私は、どうすれば良いの」

貴方が笑っていてくれるなら、

貴方の未来が幸福で満ちているなら、

─それ以上、望むものなんてないのに。

「冬の宮様?どうされましたか?」

望むのは、ダメなことなのにね。

貴方と描いた、未来は消えない。
私の中で永遠に輝いて、失われない。

「……大丈夫。よろしくね」

ドレスに身を包んで、アクセサリーを身につけて、お化粧もしてもらって、まるで、憧れだった花嫁になったような気分で。

鏡の前で確認をしていたお手伝いさんは、依月が急に黙り込んだから、心配してくれたみたい。

……結論から言うと、朱雀宮契の最愛である、『氷見依月』は消えていなかった。

お手伝いをしてくれる、彼女達の記憶にも強く残っているみたいで、偽名を使っていて良かったと思う。

それを、『冬の宮』なんて……安直かもしれないけど、お父さんとお母さんが生きていたら、生贄になる運命だったから、間違ってはいない。

「……」

(ううん、あの二人なら全力で反対してくれただろうな)

依月は一枚の紙を手に取り、その文字を指でなぞる。

箱の底に見つけてしまった、一枚の紙。
依月が好きな、向日葵が刻印された手紙。
名前もないメッセージ。

“All I want in my life is you next to me.”

─俺の人生の望みは、
ただ君が隣にいてくれること─

“I can’t imagine live without you.

─あなたがいない人生なんて考えられない─

“I love you more than words can say”

─言葉では表せないほど愛してる─

「……っ、」

英語で書かれていても、読めてしまう。
だって、依月に勉強を教えてくれた人はひとりしかいないし、何度も囁かれた。

あの声が、体温が、この耳に、身体に残ってる。

(……メイクが崩れる。泣いちゃダメ)

ダメだと分かっているのに、泣いてしまいそう。

鏡に映る自分を見ながら、我ながら、3年間でだいぶ変わってしまったものだと思う。
成長にも影響していたのか、身長は5センチほど伸びて、髪も凄く長くなって、銀色に輝いている。

(……貴方が愛してくれた依月は、もう、何処にもいないのに)

『氷見依月』は、死んでしまったんだ。
─誰にも気づかれないほど、変わったのだから。

「準備できた?」

扉がノックされ、顔を出したお兄ちゃん。
スーツを着て、格好良くなった兄のエスコートで会場に向かう。