浴室の灯りは柔らかく、湯気が立ちこめる静けさのなかで、神崎は風呂に身を沈めていた。
肩まで湯に浸かると、心地よい熱がじんわりと体を包み込む。
だが、頭の中はずっと、雪乃のことで占められていた。
キャバクラからの帰宅を見計らって訪ねた彼女の家。
玄関前にしゃがみ込むようにしていた雪乃。
彼女の前に立ちはだかるようにしていた、痩せた中年の男――彼女の父親。
「……男いたのかよ」
その一言。
そして、舌打ちひとつで背を向けて去っていった。
他人の人生に無関心で、自分の言葉だけが正義のような口ぶり。
彼は、娘をただの金づるとしか見ていない。
それは、目を合わせた瞬間にわかった。
そして、今日。
診察中も、検査中も、見て見ぬふりをした。
被覆範囲の、いくつかの傷跡。
既に治癒した古傷。
爪でえぐられたようなもの、を思わせる痕。
子供であれば即座に虐待通告の対象だった。
でも、雪乃はもう成人している。
どれだけ傷ついていようと、その事実だけで、彼女は“自己責任”の枠に押し込められてしまう。
彼女は、「お金を無心される」としか語らなかった。
でも本当に、それだけだったのか。
言葉にできない過去が、言葉の外側に溢れている気がしてならなかった。
守られるべきときに、誰にも守ってもらえなかった子供は、
大人になってもずっと、誰の目にも届かない場所で苦しみ続ける。
声を上げることすら、あきらめてしまう。
神崎は深く、浴槽に身を沈めた。
湯の中で目を閉じる。
静けさの中で、自分の鼓動と、あの細い体に宿っていた悲鳴のような振動が重なっていく気がした。
肩まで湯に浸かると、心地よい熱がじんわりと体を包み込む。
だが、頭の中はずっと、雪乃のことで占められていた。
キャバクラからの帰宅を見計らって訪ねた彼女の家。
玄関前にしゃがみ込むようにしていた雪乃。
彼女の前に立ちはだかるようにしていた、痩せた中年の男――彼女の父親。
「……男いたのかよ」
その一言。
そして、舌打ちひとつで背を向けて去っていった。
他人の人生に無関心で、自分の言葉だけが正義のような口ぶり。
彼は、娘をただの金づるとしか見ていない。
それは、目を合わせた瞬間にわかった。
そして、今日。
診察中も、検査中も、見て見ぬふりをした。
被覆範囲の、いくつかの傷跡。
既に治癒した古傷。
爪でえぐられたようなもの、を思わせる痕。
子供であれば即座に虐待通告の対象だった。
でも、雪乃はもう成人している。
どれだけ傷ついていようと、その事実だけで、彼女は“自己責任”の枠に押し込められてしまう。
彼女は、「お金を無心される」としか語らなかった。
でも本当に、それだけだったのか。
言葉にできない過去が、言葉の外側に溢れている気がしてならなかった。
守られるべきときに、誰にも守ってもらえなかった子供は、
大人になってもずっと、誰の目にも届かない場所で苦しみ続ける。
声を上げることすら、あきらめてしまう。
神崎は深く、浴槽に身を沈めた。
湯の中で目を閉じる。
静けさの中で、自分の鼓動と、あの細い体に宿っていた悲鳴のような振動が重なっていく気がした。



