過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

神崎は帰宅すると、ワイシャツの袖を肘までまくり上げ、ネクタイを外したまま机に向かった。

診察の余韻もまだ残っている。

雪乃の、不安と羞恥心の入り混じった瞳。
そして検査結果が示した現実。

それは、彼女の「苦しさ」が確かに存在する理由を証明していた。

パソコンの電源を入れると、冷えた部屋にファンの音が静かに響いた。

自分の患者を想う時、プライベートと仕事の境界はいつも曖昧になる。

検索バーにキーボードを叩き込む。
「医療費 未払い 未成年 成人後 請求」
「親が支払わなかった 医療費 責任は誰に」
「医療機関 医療費 回収 難航 ケース」

いくつかの記事、法務省のサイト、弁護士事務所のコラムがヒットする。

神崎は眉を寄せながら、ひとつずつクリックして開いていった。

内容は、想定の範囲だった。
未成年の時点での医療契約は、法的には「親権者」が支払い義務を負う。

しかし、成人後に残った未払い金に対して、患者本人に連絡が行くケースもあるという。

その中には、連帯保証人の記載もなく、保護者の所在が不明になったために成人本人へ請求が転嫁された例もあった。

画面をスクロールしながら、神崎は無意識に口元に手を当てた。
――雪乃も、そういうケースだったのかもしれない。

また、別の記事にはこうも書かれていた。

「医療機関によっては、患者が成人した後に事情を丁寧に聴き取り、法的措置ではなく減免・分割支払いなど柔軟な対応をしているケースも存在する」

神崎はページをブックマークした。
デスクに積んである医療倫理や患者権利に関する資料にも目をやる。

彼女の今の体調だけでなく、
あの「過去」にも寄り添う必要がある――。

ふと、画面の右上に表示された時刻を見る。
深夜0時を過ぎていた。

それでも、彼の指は止まらなかった。
まるで、自分にできることを探すことでしか、救われないかのように。