過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

バイト先は、相変わらず静かで穏やかな空気が流れていた。

老夫婦が営むお弁当屋。どこか懐かしい、昭和の香りがする場所。

いつもと変わらず、おじいさんは炊き上がったごはんの湯気に目を細めていて、おばあさんは煮物の味を何度も確かめていた。

午前中の病院での緊張や不安が嘘のように、ここではすべてが緩やかで、あたたかい。

黙々と、人参を刻み、出汁巻きを巻いて、白衣の代わりにエプロンを身につける。

手を動かしているうちに、自分の日常にちゃんと戻ってこられた気がした。

包丁の音。
湯気。
店の外を走り抜ける自転車の音。

夕方には少しだけ忙しくなって、予約の注文が入っていた弁当を手際よく詰めていく。

時計の針が午後七時を指した頃、ようやく今日の仕事が終わった。

「雪乃ちゃん、今日もありがとね。無理しないで、身体大事にしなよ」
おばあさんの優しい声に背中を押されるように、深く頭を下げて店を出る。

外はすっかり暗くなっていて、街灯の明かりがポツリポツリと足元を照らしていた。

家に着いて、玄関を開け、鞄を置いたその瞬間。ふと、スマホが気になった。

ロックを外すと、そこに一通のメッセージが届いていた。

「お疲れさまでした。今日はゆっくり休んでください。」

神崎先生からだった。

画面に浮かぶその短い言葉に、じわりと胸の奥がとろけるような感覚が広がった。

それは安堵とも、感動ともつかない。
ただ、あたたかくて、優しくて、そっと抱きしめられたような。

ああ、私は今日、生きててよかった。
そう思えた。