過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

神崎が戻ってきた。

「なんか騒がしくてごめんねー」

そう言いながら入ってきた彼の声は、どこか柔らかくて、空気を和らげようとしてくれているのが伝わってくる。

そのさりげない気遣いに、少しだけ肩の力が抜けた気がした。

でも、神崎がベッドの横に立った瞬間。

雪乃は無意識に、呼吸を止めていた。

すぐに肺が苦しくなって、慌てて息を吐く。

胸が上下するのが、自分でもわかるほど浅くなっていた。

神崎は、淡々と機械のスイッチを入れると、モニターに目を向けた。

その横顔には、何の迷いもない。
沈黙が気まずいのは、自分だけだった。

神崎の手が、バスタオルの隅にそっと触れた。
その瞬間。

雪乃の心臓が、ぎゅっと縮こまるような感覚になった。

たぶん、露骨に顔に出てしまった。
不安や緊張が、もう隠しきれないほどに。

神崎は機械からふと視線を落とし、雪乃の顔を一瞥した。
一度、そしてもう一度。

「大丈夫? 苦しい?」

その声は、診察室とは違う、少しくだけた口調だった。

看護師がいないから、なのかもしれない。
でもそれが逆に、距離を近づけた気がして、胸の奥がざわついた。

「いや、緊張して……」

雪乃がそう答えると、神崎は少し笑ってうなずいた。

「そうだよね。患者さんは何回やっても、嫌って言うもん」

そう言いながら、淡々と手袋を手に取って装着する。

その音すら、耳に触って落ち着かない。

心拍数が、さらに上がっているのを感じる。

自分でもわかるくらいに、ドクドクと鼓動が速く、強くなっていた。

バスタオルの下で、指先にぎゅっと力が入る。

落ち着け、と何度も自分に言い聞かせても、心は言うことを聞かなかった。