過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

神崎が戻ってくるまでのわずかな数分間。

雪乃は、薄暗い検査室の天井をぼんやりと見つめていた。
横になったまま、耳に入ってくるのは、遠くで誰かの足音と、バタバタと交わされる声。

さっきの看護師が言っていた「急変患者」という言葉が頭の中で何度も反芻され、不安がじわじわと胸に広がっていく。

このまま神崎が戻ってこなかったら――
そんなことないと分かっていても、根拠のない不安が浮かんでは消えた。

そして、これから受ける検査そのものにも、言い知れない緊張があった。
エコーの冷たさ、長い沈黙、あの、診られているという意識。

たとえ神崎が担当であっても、それは変わらない。
むしろ――変に気を遣わせてしまうのでは、と気まずさが勝る。

耳元で自分の呼吸が浅くなっていくのがわかる。
心臓の音もどこか遠く、でも確かに早く、強くなっている。

目を閉じて、少しでも心を落ち着けようとする。
けれど、閉じた瞼の裏に浮かぶのは、神崎のやさしい笑顔。
「痛くないんで、大丈夫ですよ」と言った、あの声。

その言葉を思い出すたびに、安堵と、それ以上の感情が心の奥を揺らした。
こんなときに、胸が痛むような気持ちになるなんて――。

気づけば、胸元にかけられたバスタオルを、ギュッと握っていた。
何かにすがりついていないと、落ち着かなかった。


深呼吸をしようとしてもうまくできず、喉がわずかに鳴った。
それすらも誰かに聞かれてしまいそうで、そっと唇を噛みしめる。

どうか、早く来て――。
でも、来たら来たで、また緊張してしまう。
そんな矛盾した気持ちに、胸の奥がきゅうっと締めつけられるようだった。