過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

聖南医科大学附属病院の循環器内科、午前の外来。

診察室の扉をノックし、雪乃が入ると、神崎は白衣を着て、すでにカルテを開いた状態で座っていた。

普段よりも幾分か距離のある表情で、彼は「おはようございます」と言い、椅子を勧める。

「今日は初診ということで、これから循環器内科で診ていきますからね」と、どこか形式的な口調で言う。

周囲の看護師やスタッフに“関係のない患者”であることを示すように、プロの仮面をしっかりと被っていた。

雪乃が椅子に腰かけると、神崎は姿勢を正しながらモニターを見て、キーを叩いた。

「じゃあ、少しずつ聞いていきますね」と、知っているはずの情報を改めて確認していく。

「ふらつきの頻度はどのくらいですか?」
「……週に数回、多いときは毎日のようにです」
カタカタとキーを打つ音だけが響く。

「倒れたことは?」
「あります。最近だと……お水を飲んだあとに」
「昨日の夜ですね」神崎が目だけで確認し、またモニターに目を戻す。

「その症状、いつ頃からですか?」
「高校生のときから……たぶん、10年近く前です」

神崎の指が止まり、視線が一瞬だけ雪乃に向けられる。だがすぐにまた、淡々と話を続けた。

「喫煙歴はありますか?」
「ないです」

「アレルギーは?」
「特にありません」

「持病や、これまでの既往歴は?」
「正式な診断は受けていませんが、以前にも同じような動悸やめまいがあって、病院に行こうとしても、お金がなかったり……」

言葉が尻すぼみになった。

神崎は少し頷きながら、画面に向かって文字を打ち続ける。

質問はあくまで事務的に、形式に沿って、必要事項として。

けれど、その視線の奥には、彼にしかわからない焦りと心配が滲んでいた。