しばらくして、呼吸の荒さがゆっくりと静まっていくのを感じていた。
胸を締めつけていた苦しさも、少しずつ遠ざかっていく。
意識もぼんやりしていたのが、少しずつ輪郭を取り戻してきた。
「仰向けになってもいいよ。」
神崎の柔らかな声が耳に届いた。
そっと体勢を整えてもらい、枕に頭を預けると、ふと安心感が胸に広がる。
その間も、左腕はずっと彼の手の中にあった。
手首の脈を取る指先が、ひどく静かで穏やかで、でも確かな温度を持っている。
「胸の音、聴かせてもらってもいい?」
頷くと、神崎は部屋の隅に置いていた鞄へ向かい、聴診器を取り出して耳にかけた。
その所作一つひとつに、医師としての癖が染みついていて、思わず見入ってしまいそうになる。
聴診器が近づいてくると、ブランケットの端をそっと掴んでしまった。
胸元に何かを入れられるという状況に、羞恥心がひやりと浮かび上がる。
「ちょっと我慢してね。」
神崎はブランケットを必要最小限にめくり、手際よく聴診器を服と肌の間に差し込んだ。
冷えた金属が肌に触れた瞬間、体がびくりと震える。
「ごめん、冷たかった?」
神崎は申し訳なさそうに言うが、手は止めず、いつものように…いや、それ以上に慎重に聴いている。
胸の上を滑っていく冷たい感触と、それを通して聴こえているであろう自分の鼓動。
それを感じながら、雪乃の胸にひとつの不安が影のように広がっていく。
(こんなに長く診ること、前はなかったような……)
(もしかして、前より悪くなってる……?)
ゆっくりと息を吐こうとして、肺の奥でひっかかる違和感に気づく。
神崎の表情を見ようとしたが、彼は目を伏せたまま、聴診器に神経を集中させていた。
(もし、このまま本当に悪くなっていくなら……)
心の奥底で、避け続けていた現実が顔を出しかける。
治療をしなければ、きっといつか――
その「いつか」が、思ったより近いかもしれないという予感。
不安と、怖さと、でもそれでも生きたいという気持ちが、胸の奥でせめぎ合っていた。
彼の指先が、まだ自分の腕に触れているのが、救いだった。
その温もりだけが、今、現実をつなぎとめている。
胸を締めつけていた苦しさも、少しずつ遠ざかっていく。
意識もぼんやりしていたのが、少しずつ輪郭を取り戻してきた。
「仰向けになってもいいよ。」
神崎の柔らかな声が耳に届いた。
そっと体勢を整えてもらい、枕に頭を預けると、ふと安心感が胸に広がる。
その間も、左腕はずっと彼の手の中にあった。
手首の脈を取る指先が、ひどく静かで穏やかで、でも確かな温度を持っている。
「胸の音、聴かせてもらってもいい?」
頷くと、神崎は部屋の隅に置いていた鞄へ向かい、聴診器を取り出して耳にかけた。
その所作一つひとつに、医師としての癖が染みついていて、思わず見入ってしまいそうになる。
聴診器が近づいてくると、ブランケットの端をそっと掴んでしまった。
胸元に何かを入れられるという状況に、羞恥心がひやりと浮かび上がる。
「ちょっと我慢してね。」
神崎はブランケットを必要最小限にめくり、手際よく聴診器を服と肌の間に差し込んだ。
冷えた金属が肌に触れた瞬間、体がびくりと震える。
「ごめん、冷たかった?」
神崎は申し訳なさそうに言うが、手は止めず、いつものように…いや、それ以上に慎重に聴いている。
胸の上を滑っていく冷たい感触と、それを通して聴こえているであろう自分の鼓動。
それを感じながら、雪乃の胸にひとつの不安が影のように広がっていく。
(こんなに長く診ること、前はなかったような……)
(もしかして、前より悪くなってる……?)
ゆっくりと息を吐こうとして、肺の奥でひっかかる違和感に気づく。
神崎の表情を見ようとしたが、彼は目を伏せたまま、聴診器に神経を集中させていた。
(もし、このまま本当に悪くなっていくなら……)
心の奥底で、避け続けていた現実が顔を出しかける。
治療をしなければ、きっといつか――
その「いつか」が、思ったより近いかもしれないという予感。
不安と、怖さと、でもそれでも生きたいという気持ちが、胸の奥でせめぎ合っていた。
彼の指先が、まだ自分の腕に触れているのが、救いだった。
その温もりだけが、今、現実をつなぎとめている。



