神崎は、そっと雪乃の背に手を添え、腕をまわすようにしてゆっくりと立たせた。
「段差、気をつけてください」
その声は、静かで落ち着いていたけれど、どこか急かすような切迫感も含んでいた。
頼りない足取りの雪乃を支えながら、慎重に部屋の中へと導く。
玄関を抜け、少し奥に入ったところで、神崎の支えがすっと離れた。
重力に逆らえず、雪乃はその場にぺたんと座り込んでしまった。
すぐ後ろから、靴を脱ぐ控えめな衣擦れの音が聞こえる。
それだけでも、ひどく現実味があって、胸がきゅっと締め付けられた。
数秒の沈黙のあと、再び神崎の声。
「立てますか」
そして、再び両腕がそっと彼女の身体を支え、無理のない力加減で引き上げる。
そのまま、ふわりと押し出すようにして、雪乃はベッドの縁に腰を下ろされた。
神崎は立ち上がって、無言のまま自分のコートを脱ぐ。
肩を落とす仕草が、どこか丁寧で、優しかった。
その手がワイシャツの袖へと伸び、繊細な指先で腕をくるくると捲り上げる。
肌が露わになっても、その仕草に無駄な動きはなく、手慣れた医師としての静けさがにじむ。
彼は、しゃがみ込んで、そっと目線を合わせてくる。
雪乃は、呼吸も忘れるほどにその視線を受け止めた。
何も言わない。何も聞かない。
でもそこにあるのは、紛れもなく真剣なまなざしだった。
しばらくの沈黙。
けれどその沈黙は、恐怖をなだめ、心の奥にじんわりと届いてくるような、そんな静けさだった。
「段差、気をつけてください」
その声は、静かで落ち着いていたけれど、どこか急かすような切迫感も含んでいた。
頼りない足取りの雪乃を支えながら、慎重に部屋の中へと導く。
玄関を抜け、少し奥に入ったところで、神崎の支えがすっと離れた。
重力に逆らえず、雪乃はその場にぺたんと座り込んでしまった。
すぐ後ろから、靴を脱ぐ控えめな衣擦れの音が聞こえる。
それだけでも、ひどく現実味があって、胸がきゅっと締め付けられた。
数秒の沈黙のあと、再び神崎の声。
「立てますか」
そして、再び両腕がそっと彼女の身体を支え、無理のない力加減で引き上げる。
そのまま、ふわりと押し出すようにして、雪乃はベッドの縁に腰を下ろされた。
神崎は立ち上がって、無言のまま自分のコートを脱ぐ。
肩を落とす仕草が、どこか丁寧で、優しかった。
その手がワイシャツの袖へと伸び、繊細な指先で腕をくるくると捲り上げる。
肌が露わになっても、その仕草に無駄な動きはなく、手慣れた医師としての静けさがにじむ。
彼は、しゃがみ込んで、そっと目線を合わせてくる。
雪乃は、呼吸も忘れるほどにその視線を受け止めた。
何も言わない。何も聞かない。
でもそこにあるのは、紛れもなく真剣なまなざしだった。
しばらくの沈黙。
けれどその沈黙は、恐怖をなだめ、心の奥にじんわりと届いてくるような、そんな静けさだった。



