「何してるんですか!」

鋭く、空気を裂く声が玄関前に響いた。

その声に、雪乃の身体がビクリと震える。
顔を上げると、そこには——

神崎がいた。

目を見開いた。
信じられない光景。

でも、確かにそこにいる。
一番会いたかった人。
一番、助けて欲しかった人。

「……神崎さん……」

その名を漏らした瞬間、胸にせり上がる何かを堪えるのがやっとだった。

タカシはその姿を見て、あからさまに不快そうに舌打ちをする。

「なんだよ……男いたのかよ」

吐き捨てるように言い、肩を怒らせながら階段を乱暴に降りていった。
足音が遠ざかる音を聞きながら、雪乃の中の張りつめたものがぷつりと切れる。

苦しくて、息ができない。
胸が上下を繰り返し、足元から力が抜けた。

ずるずると玄関前に座り込む。

「大丈夫ですか? 家の鍵は?」

神崎が目の前にしゃがみこみ、優しく問いかけてくる。

雪乃は、震える手でポケットを探り、鍵を握った手をそっと差し出した。

カチャリ。

鍵が神崎の手に渡り、扉の鍵が開く音がした。
その音が、どこか遠くで響くように感じた。

もう何も言葉が出てこなかった。
ただ——
神崎が来てくれた。
それだけで、どうしようもなく胸がいっぱいだった。