過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

翌朝。
窓から差し込む陽の光が、部屋の空気をほんの少しだけ柔らかくしていた。

雪乃は目を開けて、静かに息を吸った。
昨日の夜とは違う。
胸の痛みは完全には消えていないけれど、呼吸はちゃんと肺に届いていた。

──生きてる。

そんな当たり前のことが、今日はやけに現実味を持って感じられた。

布団の中で、しばらくぼんやりと天井を見つめる。
思い浮かぶのは、昨夜のこと。
「病院に行きたくないなら、俺が診るよ。お金はかからない」
そう言ってくれた、あの人の声。

穏やかで、真っ直ぐで、でもどこか、危ういほどに優しかった。

──神崎先生。

彼がここまでしてくれた理由を考えるたびに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
今まで、誰かに「大事にされた」と感じる瞬間なんて、ほとんどなかった。
強がって、笑って、倒れて、また笑って。
それを繰り返すしかなかった。

でもあの人は違った。
本気で私を助けようとしてくれた。
ただの医者と患者、ホステスと客、そんな関係を超えて。

──甘えたくなる。
──信じたくなる。

ほんの少しだけでも、もう一度ちゃんと、自分の命を扱ってもいいかもしれない。
「もう少しお金を貯めたら」と言い訳して逃げていたけど、
このままじゃ、あの人の心配を裏切るだけだ。

雪乃は、ゆっくりと体を起こし、枕元に置かれたメモを手に取った。
手書きの電話番号。
見慣れないその数字が、今はどこか、心強く見えた。

──行動しよう。
怖くても、まだ不安でも。
少しずつでいいから、前に進もう。

神崎先生に「ありがとう」と言えるように。
もう一度笑えるように。
ちゃんと、生きていこう。

小さく、だけど確かに、雪乃はそう決めた。