夜風が、肌に冷たく当たった。
深呼吸をしても、肺の奥までは届かないような、重たい空気だった。
神崎は雪乃の家を出ると、足早に歩き出し、角を曲がってからようやく足を緩めた。
胸の奥に引っかかっていたものが、まだ取れなかった。
──どうして、あんな状態になるまで放っておけるんだ。
怒っているわけじゃない。
ただ、やるせなさが残っている。
あの脈、あの呼吸、あの体温。
医者としてはもう「診てしまった」時点で、無関係ではいられない。
そして、彼女のあの目。
苦しいのに、助けを求めることができない目だった。
誰にも頼らず、すべてを自分でどうにかしようとしていた。
「ナナ……いや、大原雪乃さん。」
小さく名前をつぶやく。
たった一人で、限界まで働いて、病気と共に生きて、それでも笑おうとしていた。
それが、あの笑顔の裏にあった現実なのかと思うと、胸が軋むようだった。
家に帰る途中、無意識に何度も後ろを振り返っていた。
まだ彼女の呼吸が耳に残っている。
まだ、あの手首の脈が指先に残っている。
──俺は、どうしたいんだろう。
ただの患者として助けたいだけなのか。
それとも、それ以上の何かを求めているのか。
自分でもまだ、答えは出なかった。
けれど、一つだけはっきりしていることがあった。
もう、彼女を見捨てることはできない。
もう一度倒れても、もう一度救えるとは限らない。
だからせめて、自分が「手の届く場所」にいたい。
彼女が「助けて」と言える相手でありたい。
神崎は、ようやくマンションの前にたどり着いた。
そのまま一度、空を見上げる。
夜は静かだった。
けれど、心のどこかで、眠れない夜になる予感がしていた。
深呼吸をしても、肺の奥までは届かないような、重たい空気だった。
神崎は雪乃の家を出ると、足早に歩き出し、角を曲がってからようやく足を緩めた。
胸の奥に引っかかっていたものが、まだ取れなかった。
──どうして、あんな状態になるまで放っておけるんだ。
怒っているわけじゃない。
ただ、やるせなさが残っている。
あの脈、あの呼吸、あの体温。
医者としてはもう「診てしまった」時点で、無関係ではいられない。
そして、彼女のあの目。
苦しいのに、助けを求めることができない目だった。
誰にも頼らず、すべてを自分でどうにかしようとしていた。
「ナナ……いや、大原雪乃さん。」
小さく名前をつぶやく。
たった一人で、限界まで働いて、病気と共に生きて、それでも笑おうとしていた。
それが、あの笑顔の裏にあった現実なのかと思うと、胸が軋むようだった。
家に帰る途中、無意識に何度も後ろを振り返っていた。
まだ彼女の呼吸が耳に残っている。
まだ、あの手首の脈が指先に残っている。
──俺は、どうしたいんだろう。
ただの患者として助けたいだけなのか。
それとも、それ以上の何かを求めているのか。
自分でもまだ、答えは出なかった。
けれど、一つだけはっきりしていることがあった。
もう、彼女を見捨てることはできない。
もう一度倒れても、もう一度救えるとは限らない。
だからせめて、自分が「手の届く場所」にいたい。
彼女が「助けて」と言える相手でありたい。
神崎は、ようやくマンションの前にたどり着いた。
そのまま一度、空を見上げる。
夜は静かだった。
けれど、心のどこかで、眠れない夜になる予感がしていた。



