過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

少しずつ胸の苦しさが引いてくると、雪乃の呼吸はゆっくりと、そしてしっかりとしたものになっていった。

苦しさの波が遠ざかるたびに、心拍も徐々に安定していくのが自分でもわかる。

痛みが消えたわけではないけれど、恐怖がほんの少しだけ和らいでいた。

神崎は、雪乃の手首に指をあてたまま、静かに言った。
「落ち着いてきたね。」

その声には、安堵の色が混じっていた。

すぐに医者の顔に戻ることもできる人なのに、どこか優しい。

それが逆に、涙腺を刺激しそうになって困った。

神崎は手を離すと、聴診器を丁寧にバッグへしまいながら、ふと問いかけた。
「そろそろ帰るけど……何か心配なこと、ある?」

雪乃は少しだけ首を横に振り、小さな声で言った。
「大丈夫です。本当に……ありがとうございました。」

囁くようなその言葉に、神崎はわずかに笑って、傍のメモ帳に手を伸ばした。

そこに、何かをペンでサラサラと書きつける。

「ここに電話番号、書いといたから。」
「何かあったら、すぐに連絡して。」

それだけ言うと、神崎は立ち上がり、最後に一度だけ雪乃を見た。
「じゃあ――お大事に。」

そのまま、振り返らずに玄関へと向かい、静かにドアを閉めて出ていった。

部屋に残ったのは、まだほんの少し熱の残る身体と、
テーブルに置かれた、一枚のメモだけだった。