過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

店を出た瞬間、夜風が頬を撫でた。

だけど、その冷たさも心地よいとは感じなかった。
むしろ、皮膚の上を刺すように走り抜ける風が、体の奥に潜む熱を余計に際立たせた。

ビルとビルの間にある、小さなベンチに腰を下ろす。
脚がもう、言うことをきかない。

タバコの残り香が鼻を掠めて、胃の奥がぐらりと揺れる。
気持ち悪い。

ハンカチを取り出して、口を覆う。
吐き気と、浅くなる呼吸。
心臓が早鐘のように暴れ出していた。

「……はぁ……っ、は……っ」

何度も、何度も深呼吸を繰り返す。
少しでも落ち着かせたくて。
何もかもを誤魔化すように。

でも──ダメだ。

ここで座ったら、終わる。
立ち上がれなくなる。

雪乃は、ハッと我に返って立ち上がった。
脚が一瞬ふらついたけれど、倒れずに踏ん張った。

一歩。

気合いを込めて、足を前に出す。

一歩ずつ。

電柱を数える。
信号まであと5本。
あと4本。

胸元を服ごとぎゅっと握りしめる。
握った拳の力で、痛みをごまかすように。

点滅し始めた信号を、足早に渡る。
あと少し。あと少しで、帰れる──

そう思った瞬間。

大きな波が、心臓を揺らした。

「……っ、う……っ」

思わず、声が漏れる。
こらえきれず、足が止まる。

荒れた呼吸。
痛む胸。

咄嗟にハンカチで口を覆った。

周囲を見渡し、空き店舗の前、シャッターの下に腰を下ろす。
もう、立っていられなかった。

呼吸が、どんどん早くなる。
息が苦しい。
胸が焼けるように痛い。

胸元をぎゅっと掴む。
爪が皮膚に食い込むのも構わずに。

「苦しい……っ、苦しい……っ……」

もう、何も聞こえない。
遠ざかる街の音。
灯りも、滲んで見えなくなってきた。