過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

雪乃は神崎をエレベーターまで送り出し、その背中が完全に見えなくなると、まるで糸が切れたように力が抜けた。

バックヤードに戻ると、薄暗い室内の片隅にあるパイプ椅子に座り、そのまま机に突っ伏した。

視界がぐにゃりと歪む。
頭が回らない。
目を瞑ればそのまま意識が落ちてしまいそうだった。

後ろから、控えめな声が聞こえた。

「今日はもう帰れ。その体では無理だ。」

振り向かなくても、篠原の声だと分かった。

雪乃はゆっくりと頷いた。
頷くだけで体が重くて、首がもげそうだった。

立ち上がると、足元がふらつく。
ロッカーに手をつき、壁を伝いながら歩く。
視界の端がぼやけ、廊下の照明が妙にまぶしい。

口にハンカチを当てて、過呼吸を抑えるようにゆっくり息を吐く。

変な動き方をする心臓が、時折ガクンと脈を外す。
そのたびに、うっと息が止まり、喉が詰まる。

だめだ、立ち止まったら終わる。
ここで座り込んだら、きっともう帰れない。

あと少し。
あとちょっと。

もしこれで家にたどり着けたら、
ゲームでいう「クリア報酬」がもらえる気がした。

体の芯に残る熱と痛み。
目の奥の圧迫感。

でも、これを「現実」だと思っていたら心が折れる。

だから雪乃は、心の中でつぶやく。

これはゲーム。
帰宅クエスト。
ボス戦はもう終わった。
あとはゴールまで、たどり着くだけ。

そうやって、自分を鼓舞するしかなかった。