夜。ふたりでお風呂を済ませたあと、濡れた髪を乾かし合って、そのまま並んでベランダへ出た。
夏の夜風が心地よく肌を撫で、少し湿った空気に、遠くの街のざわめきが混じっている。
「……ねえ、なんか音がしない?」
雪乃がふと空を見上げた。
「うん。今日、花火大会なんだよ」
大雅が言うと、雪乃の目がぱっと驚きと期待に揺れる。
「えっ、そうなんだ……ここから見えるかな?」
「見えると思うよ。……でも、俺、毎年この日には仕事入れてたから、ちゃんと見たのって……ずっと前」
「なんで仕事入れちゃうの?」
雪乃が不思議そうに尋ねると、大雅はふっと笑って、少し肩をすくめた。
「だって……一人で花火見るの、つらくない?」
その言葉に、雪乃は一瞬驚いたように目を瞬き、でもすぐに小さく頷いた。
「ああ……わかるかも。私も……花火大会なんて、小さいときに家族で行ったのが最後かな。人混みも嫌だったし、なんか……」
「寂しくなるよね」
大雅の声は、静かでやさしかった。
「……でも、もうこれからは」
彼がそっと雪乃の手を取る。
「ふたりで、毎年見ようね」
「……うん」
返事は、かすれそうな声だったけれど、確かに胸の奥からこぼれた言葉だった。
その時――
夜空に、ひゅう……という音が響いたかと思うと、次の瞬間、ぱあっと鮮やかな光の花が咲いた。
金や紅、青や紫。さまざまな色が、夜の闇を彩るように広がっては消えていく。
空に浮かんだその一輪一輪が、まるでふたりのこれからを祝福するようで。
雪乃は、ぽうっとした表情で見上げていた。
そのとき、大雅の指がそっと雪乃の顎に触れた。
やわらかく、でも迷いなく――彼女の顔を自分の方へ向かせる。
雪乃の瞳が、大雅の瞳と重なった。
次の瞬間。
夜空のきらめきに包まれながら、彼の唇がそっと彼女の唇に重なった。
それは、驚くほどやさしくて、静かで、
でも、胸の奥まで火が灯るような――そんなキスだった。
唇と唇が触れ合っただけで、ふたりのあいだを流れる温度が変わる。
心がそっと擦れ合い、安心とときめきが静かに溶け合っていく。
ふうっと漏れた雪乃の吐息に、大雅がほんの少し角度を変えて、さらに深く唇を重ねた。
けれど、そのキスに力はない。
あくまでやさしく、余韻を確かめるように、互いの存在を慈しむように――
時間が止まったようだった。
火薬の音も、夜風のそよぎも、すべてが遠のいて、ただふたりだけの世界がそこにあった。
大雅の手が雪乃の背に回され、彼女の身体をそっと引き寄せる。
抱きしめる腕の強さに、彼女は無言の想いを感じ取った。
(もう、ひとりじゃないんだ――)
そう思えた瞬間、雪乃の胸がいっぱいになった。
安心と愛しさに満たされながら、彼女はそっと目を閉じて、大雅に身を預ける。
そのキスは、花火よりも鮮やかに、心の奥に焼きついた。
一瞬だったのに、永遠より長く感じられた。
夏の夜風が心地よく肌を撫で、少し湿った空気に、遠くの街のざわめきが混じっている。
「……ねえ、なんか音がしない?」
雪乃がふと空を見上げた。
「うん。今日、花火大会なんだよ」
大雅が言うと、雪乃の目がぱっと驚きと期待に揺れる。
「えっ、そうなんだ……ここから見えるかな?」
「見えると思うよ。……でも、俺、毎年この日には仕事入れてたから、ちゃんと見たのって……ずっと前」
「なんで仕事入れちゃうの?」
雪乃が不思議そうに尋ねると、大雅はふっと笑って、少し肩をすくめた。
「だって……一人で花火見るの、つらくない?」
その言葉に、雪乃は一瞬驚いたように目を瞬き、でもすぐに小さく頷いた。
「ああ……わかるかも。私も……花火大会なんて、小さいときに家族で行ったのが最後かな。人混みも嫌だったし、なんか……」
「寂しくなるよね」
大雅の声は、静かでやさしかった。
「……でも、もうこれからは」
彼がそっと雪乃の手を取る。
「ふたりで、毎年見ようね」
「……うん」
返事は、かすれそうな声だったけれど、確かに胸の奥からこぼれた言葉だった。
その時――
夜空に、ひゅう……という音が響いたかと思うと、次の瞬間、ぱあっと鮮やかな光の花が咲いた。
金や紅、青や紫。さまざまな色が、夜の闇を彩るように広がっては消えていく。
空に浮かんだその一輪一輪が、まるでふたりのこれからを祝福するようで。
雪乃は、ぽうっとした表情で見上げていた。
そのとき、大雅の指がそっと雪乃の顎に触れた。
やわらかく、でも迷いなく――彼女の顔を自分の方へ向かせる。
雪乃の瞳が、大雅の瞳と重なった。
次の瞬間。
夜空のきらめきに包まれながら、彼の唇がそっと彼女の唇に重なった。
それは、驚くほどやさしくて、静かで、
でも、胸の奥まで火が灯るような――そんなキスだった。
唇と唇が触れ合っただけで、ふたりのあいだを流れる温度が変わる。
心がそっと擦れ合い、安心とときめきが静かに溶け合っていく。
ふうっと漏れた雪乃の吐息に、大雅がほんの少し角度を変えて、さらに深く唇を重ねた。
けれど、そのキスに力はない。
あくまでやさしく、余韻を確かめるように、互いの存在を慈しむように――
時間が止まったようだった。
火薬の音も、夜風のそよぎも、すべてが遠のいて、ただふたりだけの世界がそこにあった。
大雅の手が雪乃の背に回され、彼女の身体をそっと引き寄せる。
抱きしめる腕の強さに、彼女は無言の想いを感じ取った。
(もう、ひとりじゃないんだ――)
そう思えた瞬間、雪乃の胸がいっぱいになった。
安心と愛しさに満たされながら、彼女はそっと目を閉じて、大雅に身を預ける。
そのキスは、花火よりも鮮やかに、心の奥に焼きついた。
一瞬だったのに、永遠より長く感じられた。



