過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

朝の光が、木々の間からこぼれる。
アスファルトに落ちた木漏れ日が、風に揺れるたびに揺れて、まるで穏やかな音楽のように見えた。

「暑すぎなくてよかったね」
そう言った大雅の手が、雪乃の手をしっかりと包んでいる。

「……うん、歩くの久しぶりだから、ちょっと緊張したけど……」
「無理しなくていいよ。少し歩いたらベンチで休もう」

「……ううん、大丈夫。こうして一緒に歩いてるだけで、なんか元気出てくるから」

そう口にしながら、雪乃は内心、胸がいっぱいだった。

(こんな穏やかな時間、夢みたい……)

手術が終わった安心感。
退院できた喜び。
大雅の隣を歩いている、ただそれだけで、涙が出そうになる。

(あんなに不安だったのに……怖かったのに……)
(今、手をつないで歩いてるだけで……こんなに、幸せ)

「……ねえ、大雅さん」
「ん?」

雪乃は立ち止まって、大雅を見上げた。

「すごく、すごく……今が幸せ」
「……うん。俺も」

「病気になって、辛いこともいっぱいあったけど……こうして今、隣にいてくれる人がいて、ちゃんと歩いてる自分がいて……」
「……あんまり幸せだと、ちょっとこわくなるよね」

その言葉に、雪乃は驚いたように目を瞬かせた。

「……うん。そう、こわいくらい」
「でも大丈夫。怖いと思ったら、手、ぎゅって握って」

大雅はそう言って、繋いでいた手を少しだけ強く握る。
その力に応えるように、雪乃もそっと指を絡め直した。

(大丈夫だ。この手がある限り、きっともう、ひとりで泣かなくていい)

「じゃあ……もう少し歩こうか。次の角まで、一緒に」

「うん、一緒に」

ゆっくり歩く足音が、朝の静けさのなかで優しく響く。
心の奥深くにまで染み渡るような、あたたかい幸せが、胸いっぱいに広がっていった。