窓の外には、夏の夜風が心地よく吹いていた。
リビングにはやわらかな照明が灯り、テーブルの上には大雅が腕によりをかけた夕食が並んでいる。

「わぁ……すごい……」
雪乃が小さく歓声を上げた。

メインは鯛の和風カルパッチョ。
彩りのよい野菜と共にさっぱりと仕上げられたそれは、目にも美しく、食欲をそそる。
ほかにも、豆腐と枝豆のふんわり真丈、南瓜の冷製スープ、柔らかく炊かれた鶏胸肉の梅煮。
術後の身体を気遣いながらも、特別感のある献立だった。

「久しぶりの大雅さんのごはん……嬉しい……」
雪乃はそっと箸を取り、まずはスープを口に運ぶ。
「ん……やさしい味……すごくほっとする……」

大雅はキッチンから水を運びながら、雪乃の表情を満足そうに見守った。
「がんばったご褒美だよ。今日くらい、ちょっと贅沢してもいいでしょ？」

「……ねぇ、大雅さん」

「ん？」

雪乃は少しだけ困ったような顔で、大雅を見つめる。
「……食べさせてほしいな」
そう呟いた彼女の頬は、ほんのり赤い。

大雅は少し驚いたように目を丸くして、すぐに微笑む。

「……今日は一段と甘えるね」

彼は椅子を引き、雪乃の隣に腰を下ろした。
「じゃあ、口開けて」

「……ん」

スプーンにすくったスープをそっと運ぶと、雪乃は素直に口を開けた。
ゆっくり噛んで、飲み込んで、そして柔らかく笑う。

「美味しい……でもそれより、大雅さんに食べさせてもらえるのが……すごく、幸せ」

大雅は照れたように笑いながらも、また一口分をすくって言った。

「甘やかされすぎて、とろけちゃうかもね」

「とろけさせてよ、今日は特別だから……」

大雅は雪乃の額に軽くキスを落としながら、囁く。

「……うん。特別な君の夜だもんね。
体に負担にならない程度に、いっぱい甘やかすから──覚悟して？」