過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

消灯時間を過ぎた病棟は、静まり返っていた。
窓の外では、遠くの街灯がわずかに光を投げかけている。
雪乃はベッドの上で横になりながら、静かに天井を見つめていた。

――こんなふうに、落ち着いて夜を迎える日が来るなんて。
少し前までの自分には、想像もできなかった。

手術は終わった。
あれほど不安で、怖くて、どうしようもなかった日々。
でも今、自分はちゃんと生きてここにいる。
体はまだ本調子じゃないけれど、それでも、少しずつ「元気になっていく」道の途中にいる。

神崎先生がいてくれた。
どんなに忙しくても、疲れていても、必ず自分のところへ来てくれて。
あの人の声が、手のひらが、何度雪乃の不安を拭ってくれただろう。

――私には、居場所があるんだ。

そう思えることが、こんなにも心強いなんて知らなかった。
“彼女”として寄り添ってくれる神崎のことが、ますます大切に思える。

そして、滝川先生も、遠藤さんも、皆が温かく見守ってくれている。
病気のことだけじゃなく、人として、ちゃんと関わってくれる人たち。
“患者”としてじゃなく、“雪乃”という一人の人間として接してくれている。

嬉しい。
有難い。
そして、何よりも……幸せだ。

胸の奥がじんわりと熱くなった。
涙が出るほどじゃないけど、心がいっぱいで、呼吸が少し深くなる。

「……ちゃんと、元気になろう」

ぽつりと、ひとりごとのように呟いた。

神崎が笑ってくれるように。
支えてくれたみんなに、元気な姿を見せられるように。

目を閉じれば、思い浮かぶのは神崎の笑顔。
低くて、穏やかな声。
自分を抱きしめる温もり。

――明日も、頑張ろう。

そんなふうに思える夜は、何よりの薬だった。