過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

ゆっくりと歩幅を合わせながら、雪乃と遠藤は病棟の廊下を一歩ずつ進んでいた。
壁沿いの手すりに軽く手を添え、遠藤が絶妙な距離感でサポートしている。

「うん、歩き方きれい。足元も安定してるよ。いい感じ」

「……でもちょっと緊張しますね、やっぱり」

「そりゃそうだよ。数日ベッドで寝てたんだもん。でも大丈夫。あたしがついてるから」

雪乃が小さく笑うと、遠藤はおどけたように小声で言った。

「でさ〜……ねえ、やっぱりさ……一緒に暮らしてるんでしょ? 神崎先生と」

雪乃は歩みを止めかけて、一瞬ぽかんとする。

「えっ……ど、どうしてそれを……?」

「いや〜、滝川先生と話してたらぽろっと聞こえちゃって。“あのふたり、もう一緒に住んでるし”って」

「…………滝川先生」

「あの人、結構うっかりだからね~」

雪乃は少し頬を赤らめながら、ゆっくりと歩を進める。

「……一緒に暮らしてるっていうか、なんとなく流れで……でも、落ち着きます。先生の家、静かで安心できる」

「へぇ〜〜。じゃあ家ではあの神崎先生、どんな感じなの? やっぱり無口でクールなまま?」

雪乃は首を振って、小さく笑った。

「そんなことないです。意外と……甘やかしてくるというか。私が何かすると、“偉い”とか、“よくできました”って言ってくるし」

「うわ、それはズルい。そんな神崎先生見たことない! ギャップ萌えだね〜」

「あと、朝ごはん作ってくれたり……ソファで寝落ちしてたら毛布かけてくれたり……」

遠藤は思わず顔をしかめて悶絶するように言った。

「なにそれ、爆モテ彼氏じゃん! ズルいってば、雪乃ちゃん!!」

雪乃は慌てて手を振る。

「ち、違います、そんな……! ただ……私が一人じゃだめだから、って言ってくれて」

遠藤はふっと表情をゆるめて、優しく微笑む。

「うん、それが一番ステキ。ちゃんとお互いを支え合ってるんだね。……いい関係だなぁって思うよ」

「……ありがとうございます」

二人はまた静かに歩き出す。
窓から差し込む午後の光が、雪乃の顔を優しく照らしていた。

「よし、じゃあもう少しだけ歩いて戻ろうか。今日の目標、達成できそうだよ」

「はい、お願いします」

そんなやり取りを交わしながら、二人の笑い声が病棟の廊下に響いていた。