過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

翌朝、朝の光が病室に差し込むころ。
雪乃はベッドの上でリモコンを持ち、何気なくテレビのチャンネルを変えていた。

ふと、静かに開いたドアの方を向くと――そこには見慣れた白衣の姿。

「おはよう」

柔らかな声とともに、神崎が入ってきた。
一晩ぶりのその姿に、雪乃の胸が自然と高鳴る。

「……先生、来てくれたんですね」

「当たり前だろ。昨日は無理やり帰らされたけど……やっぱり雪乃の顔見ないと落ち着かない」

そう言って神崎はベッドの脇にしゃがみこむと、雪乃の頬にそっと触れ、指で髪をなぞるように整えた。

「顔色いいな。ちゃんと寝られたか?」

「うん。昨日、滝川先生も来てくれて……大雅先生のこと、いじられたけど」

「……何言われたのか想像つくな。俺がいないと困るとか?」

図星をつかれて、雪乃は思わず俯いた。

「……聞いてたんですか?」

「だって遠藤さんがニヤニヤしながら報告してきたからな。あの人、ほんと容赦ない」

神崎は笑いながら雪乃の手を取る。
そしてそっとその指先にキスを落とす。

「俺のいないところでも、ちゃんと守ってくれてる人がいるって安心する。でも……やっぱり俺が一番甘やかしたい」

雪乃は顔を赤らめながらも、小さく笑った。

そんな穏やかな時間を遮るように、ノックとともに遠藤が現れる。

「はいはい、ごちそうさま〜。ラブラブタイムはここまでー」

「……遠藤さん」

神崎は雪乃の手を離しながらも、まだ口元には優しい笑みを浮かべたまま。

「今日はどうします? 歩行訓練、始められそうですか?」

「はい、大丈夫です」

雪乃がしっかりと頷くと、遠藤は頼もしく頷き返す。

「よし、じゃあ病棟の廊下を一緒に一周してみましょう。ゆっくりでいいからね」

神崎も立ち上がり、雪乃の肩に手を置く。

「焦らなくていい。ゆっくり、自分のペースで」

「……うん」

雪乃はナースコール用のコードをベッドに残し、遠藤に支えられてそっと立ち上がる。
歩く一歩一歩はまだ頼りないが、確実に“退院へ向かう道”を踏み出している。

廊下へと向かう背中に、神崎は静かに目を細めた。

――君が歩くその先に、ちゃんと俺が待ってる。
そんな想いを胸に込めながら。