過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

転棟初日の夕方。
窓の外は夕焼けに染まり、病棟全体が柔らかな橙色に包まれていた。

雪乃がぼんやりとテレビを眺めていたそのとき、ノックの音とともに病室のドアが開く。

「よう、調子はどうだ?」

軽やかな声とともに入ってきたのは滝川だった。
後ろにはカルテを抱えた遠藤も続く。

「滝川先生……」

雪乃が小さく笑うと、滝川はにっと笑ってベッドの傍まで歩み寄る。

「やっと俺たちのテリトリーに戻ってきたな。待ってたぞ、雪乃さん」

「そんなに歓迎されるとは思ってませんでした」

「そりゃあもう。ICUに預けてる間も外科病棟に移ってからも、神崎がそわそわしててな。毎日、外科病棟のスケジュールと俺の当直表を照らし合わせて……“今日杉村先生いますか?”って」

遠藤が笑いながら補足する。

「おかげで外科のナースステーションでも有名でだったみたいですよ、“雪乃さんの彼”って」

雪乃は頬を染めながら、枕の端を指先でいじる。

「……あの、大雅先生、今日は?」

不意にぽつりと呟いた雪乃に、滝川と遠藤はまた顔を見合わせた。

「出た、ラブラブ発言」

「会ってないと不安になっちゃうのか〜?」

「べ、別に……そういうんじゃ」

遠藤がくすっと笑って、肩をすくめる。

「今日ね、神崎先生はお休みなの。ずっと連勤してて寝てなかったから、滝川先生が強制的に帰したのよ」

滝川が胸を張るように言う。

「ほら、無理させると雪乃さんに怒られるだろ? だからね、俺がちゃんと休ませといた。えらい?」

雪乃はふっと笑って、深く一礼するように言った。

「ありがとうございます。……ほんとに、休んでほしかったから」

その言葉に、ふたりは一瞬目を丸くしてから、すぐに吹き出した。

「え、めっちゃいい子じゃん!」

「神崎先生が倒れたら、雪乃ちゃん困るもんね〜?」

「そういう意味じゃ……ないけど……」

遠藤がわざとらしくノートにメモを取るふりをする。

「はい、“神崎先生がいないと困る”と本人の口から明言いただきました〜」

「やめてくださいっ……!」

病室の空気がやわらかくほぐれ、雪乃の顔には自然な笑みが浮かんでいた。

滝川はそんな様子を見届けてから、穏やかな声で言った。

「経過は順調。食事も問題なく摂れてるし、バイタルも安定。明日からは少しずつ動いてみよう。遠藤さんと一緒に頑張れそうだな?」

「はい……お願いします」

「任せてください!」と遠藤も胸を張って応える。

滝川は軽く頷いて、カルテを閉じた。

「じゃあ俺はそろそろ戻るよ。……あ、神崎、明日からまた来ると思うから、心の準備はしておいてな?」

「……は、はい……」

顔を赤くする雪乃に、また遠藤が笑いかける。

「ほんと、いい子に育ったなあ」