過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

手術から一夜明け、雪乃はICUで安静に過ごしていた。
心電図は安定し、呼吸状態も良好。翌日には徐々に経口摂取が可能になり、目を覚ます時間も少しずつ増えていく。

神崎は合間を縫って、彼女のもとを訪れていた。
無理に話しかけることはせず、ただ隣に座り、手を握るだけの日もあった。

「……寝顔ばっか見られて、ずるいな」
雪乃がそうつぶやいたのは、術後三日目の午後だった。

その言葉に、神崎はふっと笑いながら返す。
「起きてる顔も、ちゃんと見てる。綺麗だから、どっちでも嬉しいけど」

「……それ、今だけ許されるセリフでしょ」

少しだけ力の戻った声で言い返す雪乃に、ようやく神崎は本当の意味で安堵した。
熱もなく、術後の感染徴候もない。胸の痛みも、鎮痛剤でうまくコントロールされている。

そして術後四日目の朝、主治医の杉村が回診に訪れた。

「おはよう。調子はどうですか?」

落ち着いた声で問いかけながら、カルテを手に雪乃の様子を確認する。
雪乃はゆっくりと頷きながら答えた。

「痛みは少しありますけど、昨日よりだいぶ楽になりました」

杉村は心電図の波形と血液データを一瞥し、呼吸音を丁寧に聴診する。
その後、穏やかな表情で神崎のほうにも視線を向けた。

「感染の兆候もありません。肺もよく動いてる。予定どおり、明日には一般病棟に移れます」

神崎は軽く頭を下げた。

「ありがとうございます。本人も前向きです」

「そうですね。順調です。あとはリハビリと栄養の管理を中心に。精神的なケアも引き続きお願いします」

「はい、僕の方でもサポートします」

短い会話ながら、医師同士の連携が自然に交わされる。

杉村は最後に雪乃に向き直り、口元を緩めて言った。

「焦らずに。身体はちゃんと回復する力を持っています。よく頑張りました」

雪乃は、少し照れたように笑って頷いた。

回診が終わり、静かになった病室。
神崎は再びベッドの傍に椅子を引き寄せ、そっと彼女の手を取った。

「順調だってさ。……えらいよ、雪乃」

「……頑張ったって、先生たちが言ってくれると、なんか安心するね」

「俺は最初から信じてた。回復したら、一緒に退院祝いしような」

そう囁く神崎の声は、どこまでも優しかった。
雪乃はその手の温もりを感じながら、穏やかなまなざしで神崎を見つめ返した。