過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

ICU(集中治療室)は、静けさの中に機械音だけが規則正しく響く空間だった。
雪乃のベッドの周囲には、心電図モニターや点滴、ドレーン類が整然と並んでいる。

神崎は白衣のまま、そっとその横に立った。
静かに呼吸を繰り返す雪乃の顔を見つめ、しばらく言葉もなく見守る。

麻酔はすでに浅くなり始めている。
彼女のまぶたがわずかに揺れたのを見て、神崎は息を飲んだ。

「……雪乃」

名を呼ぶ声は、ごく小さなささやきだった。
それでも、彼女には十分だったのかもしれない。

薄く開いたまぶたの奥で、焦点が定まらないまま、それでも神崎を探すように視線がさまよう。
そして、ほんのわずかに――微かに微笑む。

「……たいが、さん……?」

かすれた声が喉から漏れた瞬間、神崎の胸がぎゅっと締めつけられた。
その声を、顔を、戻ってきた命の重みを、噛みしめるように見つめた。

「うん。俺だよ。……頑張ったな、雪乃。よく、戻ってきてくれた」

神崎は、彼女の手を優しく握った。
点滴の針が刺さっている腕を避けながら、そっと指先を絡める。

雪乃の目には涙がにじんでいた。
言葉にはならなくても、その表情がすべてを語っていた。

「……怖かった?」

そう尋ねると、彼女はわずかに頷いた。
神崎はその頬に手を添え、額にそっとキスを落とす。

「もう大丈夫。これからは、俺がずっとそばにいる」

その言葉に、雪乃は静かにまぶたを閉じた。
安心したように、また浅く眠りの中へと落ちていく。

神崎はその様子を見守りながら、もう一度、小さく呟いた。

「おかえり」

誰に聞かせるでもないその声は、ICUの静寂に溶けて消えた。