「うちならカテーテルでもできる。
開胸じゃなくても、済む」
淡々と、けれど真剣な声だった。
「……そうですか」
ナナ――雪乃は、表情を変えず答えた。
どこか遠くを見るような、焦点の合わない目で。
「家族は?」
「いません」
返事は即答だった。用意されたセリフのように、感情の起伏は一切ない。
神崎の目がわずかに揺れた。
その瞳に、ほんのわずかな動揺が走ったのを、雪乃は見逃さなかった。
「倒れたら、誰も助けてくれないぞ」
「……そのときはそのときです。
いつも部屋は片付けてあります」
その言葉に、神崎は何も言えなくなった。
グラスの中でわずかに揺れる酒。
それが、ちくりと体を刺すように血管をめぐった。
胸が――ギュンと、強く波打つ。
(……っ)
息が一瞬、詰まる。
顔をしかめて、眉間にシワを寄せてしまった。
神崎が何かを言いかけた瞬間、雪乃は立ち上がった。
「……ちょっと、外します」
それだけ告げて、ふらつきながら席を立つ。
すぐに篠原が別のキャストをヘルプにつけるよう動いた。
手慣れた様子だった――こうなることを、どこかで想定していたかのように。
バックヤード。
壁に背を預け、雪乃は胸に手を当てた。
(落ち着け……大丈夫。大丈夫だから)
脈が乱れている。
まるで、リズムを失った打楽器のように、不規則に飛んで、弾けて、沈む。
指先が痺れてきた。
頭が少し、霞がかっている。
(……過呼吸かもしれない)
ハンカチを取り出し、口と鼻を覆う。
小さく、小さく、息を吸って、吐いて。
繰り返す。意識を手放さないように、踏ん張る。
そのとき、扉が軋む音がして、篠原が入ってきた。
しゃがみ込み、雪乃の顔をのぞきこむ。
「……大丈夫か」
答えようとしたが、声が出なかった。
喉が詰まったように、何も発せられない。
ただ、視界の隅で、篠原の眉間が深く寄っていた。
それを、ぼんやりと見つめながら――雪乃は、静かに目を閉じた。
開胸じゃなくても、済む」
淡々と、けれど真剣な声だった。
「……そうですか」
ナナ――雪乃は、表情を変えず答えた。
どこか遠くを見るような、焦点の合わない目で。
「家族は?」
「いません」
返事は即答だった。用意されたセリフのように、感情の起伏は一切ない。
神崎の目がわずかに揺れた。
その瞳に、ほんのわずかな動揺が走ったのを、雪乃は見逃さなかった。
「倒れたら、誰も助けてくれないぞ」
「……そのときはそのときです。
いつも部屋は片付けてあります」
その言葉に、神崎は何も言えなくなった。
グラスの中でわずかに揺れる酒。
それが、ちくりと体を刺すように血管をめぐった。
胸が――ギュンと、強く波打つ。
(……っ)
息が一瞬、詰まる。
顔をしかめて、眉間にシワを寄せてしまった。
神崎が何かを言いかけた瞬間、雪乃は立ち上がった。
「……ちょっと、外します」
それだけ告げて、ふらつきながら席を立つ。
すぐに篠原が別のキャストをヘルプにつけるよう動いた。
手慣れた様子だった――こうなることを、どこかで想定していたかのように。
バックヤード。
壁に背を預け、雪乃は胸に手を当てた。
(落ち着け……大丈夫。大丈夫だから)
脈が乱れている。
まるで、リズムを失った打楽器のように、不規則に飛んで、弾けて、沈む。
指先が痺れてきた。
頭が少し、霞がかっている。
(……過呼吸かもしれない)
ハンカチを取り出し、口と鼻を覆う。
小さく、小さく、息を吸って、吐いて。
繰り返す。意識を手放さないように、踏ん張る。
そのとき、扉が軋む音がして、篠原が入ってきた。
しゃがみ込み、雪乃の顔をのぞきこむ。
「……大丈夫か」
答えようとしたが、声が出なかった。
喉が詰まったように、何も発せられない。
ただ、視界の隅で、篠原の眉間が深く寄っていた。
それを、ぼんやりと見つめながら――雪乃は、静かに目を閉じた。



