夜の静けさが部屋を包み、窓の外の街灯が柔らかく揺れていた。
リビングの間接照明だけが、雪乃の表情を優しく照らしている。

ソファに座る雪乃は、広げたバッグの中身を確認していた。
入院用の服や洗面道具をひとつひとつ丁寧に手に取り、時折ため息をつく。
不安な気持ちが隠せず、指先が少し震えていた。

その隣に座る大雅は、そっと彼女の肩に手を伸ばした。
「大丈夫だよ。全部準備できてる。俺がついてるから」

雪乃はその声に少しだけ安心したように目を閉じたが、まだ心配そうに震えている。

大雅は優しく彼女の手を取ると、ゆっくりと立ち上がり、雪乃を包み込むように抱きしめた。
柔らかなぬくもりが雪乃の身体に伝わり、緊張が少しずつほどけていく。

「怖いよね。わかってる。無理しなくていいんだ」
囁くように言いながら、大雅はそっと雪乃の髪に触れ、額にそっとキスを落とす。

雪乃は震える手を大雅の背中に回し、身体を預けた。
そのぬくもりの中で、初めて涙がこぼれ落ちた。

「ごめん、弱くて」
小さな声が漏れる。

「謝らなくていい。俺が守るから」
大雅はさらに優しく抱きしめ、もう一度額に軽くキスをしてから、彼女の髪を撫でた。

雪乃は深く息を吸い込み、やっと落ち着いた様子で微笑んだ。
「ありがとう、大雅さん……」

「呼び捨てでいいよ」
彼は微笑み返し、再び手を握った。

「明日からの入院、寂しくなったらいつでも電話して。俺、待ってるから」

夜の静寂に包まれながら、二人の温もりが確かにそこにあった。