薄明かりのさす寝室。
雪乃はふと気配を感じて目を開けた。

まだ外は青みがかった薄暗さに包まれていて、枕元の時計は朝の5時を少し回ったところを指している。

視線を動かすと、ベッドの端でシャツに腕を通している大雅の姿があった。
パチパチと小さく鳴るボタンの音。

彼の顔にはまだ眠気が残っているのに、どこか張り詰めた空気があった。

「……どうしたの?」

寝起きの声でそう尋ねると、大雅は一瞬手を止めて、ベッドを振り返った。

「起こしちゃった? ごめん」
優しい声。でもすぐに表情が少し引き締まる。
「さっき病院から連絡があって。担当の患者さんが急変したって……ちょっと行ってくるね」

そう言いながら、ベッドに近づいてきて、彼女の髪をそっとかき上げ、額にキスを落とした。

「雪乃は、ちゃんと寝ててよ。無理しないで」

何も言えず、雪乃は小さくうなずいた。
大雅はスマホを手に取り、玄関へ向かっていく。その背中が見えなくなるまで、布団の中からただじっと見送っていた。

ドアが静かに閉まる音がして、ようやく部屋に再び静寂が戻る。

――すごいな、大雅さんは。
自分のこともちゃんと見てくれて、誰かの命のためにもすぐに動ける。
心配だけど……それでも、どこか誇らしい。

シーツに頬をうずめながら、雪乃はそっと目を閉じた。
心にぽっと灯ったような温かさと、彼の不在に感じるわずかな寂しさを抱えながら。