過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

また酒を口に運ぶ。

グラスの中身は、もはや色がついているだけの水のようなもの。
昨日よりも、さらに薄く。

それを見て、神崎はふっと苦笑いを浮かべた。

「……そこまでやるか」

意味がわからず視線を向けると、
神崎は自分の右手を、無言でテーブルに差し出していた。
手のひらを、上にして。

「……なんですか」

問いかけると同時に、神崎は雪乃の左手首を取った。

「また……」

前回と同じように、何も言わず脈を取っている。

(あなたがどれだけ私の病状を把握したところで、どうにもならないのに。)

心の中でつぶやきながら、雪乃は虚ろな目で彼の手元を見つめていた。

「……乱れてる」

神崎の低い声。

「これで苦しくないのか?」

「以前は、苦しかったですけど……最近は慣れました。平気です」

それを聞いた瞬間、神崎は頭を抱え、しばらく沈黙した。

「一度、近いうちにちゃんと状態を確認した方がいい。
 感染性心内膜炎や心不全を起こしたら――命に関わる」

その言葉も、どこか遠くの出来事のようだった。

命に関わっても、別に。
私には関係ない。

「……大丈夫です。今のところ、なんともないので」

「なんともない脈の触れ方じゃない」

神崎は苛立つように言った。
彼の目には、憤りと焦りの色があった。

けれど、それでも雪乃は微笑みを浮かべた。
営業用の、張りついたような笑顔。

「お医者さんでも、どうにもならないことってあるんですよ」

そう言ったその声に、わずかな哀しみが混じっていた。