過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

唐揚げがきつね色に揚がる音が、キッチンに心地よく響いていた。

油の中で舞う衣の泡がパチパチと弾けるたびに、にんにく醤油の香ばしい匂いが広がっていく。

「……いい匂い」

そう呟いて、雪乃は火加減を調整しながら、冷蔵庫から今朝「きくの」のおばあちゃんにもらった中華風のサラダを取り出した。

コリコリのキクラゲと春雨、細切りのハムときゅうりが、ごま油の効いたタレにほどよく馴染んでいて、唐揚げの付け合わせにぴったりだと思った。

「さすが、おばあちゃんの味……」

そんなふうに思いながら盛りつけをしていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。

「ただいま」

大雅の声だった。
まだ外はうっすら明るく、時計を見ると午後六時を少し回ったところ。

「おかえりなさい、今日はちょっと早いんですね」

雪乃が顔を出すと、大雅はスーツの上着を脱ぎながら、ふわりと笑った。

「今日は外来が少なくてね。早く終わったから、様子見に帰ってきた」

「様子って……ちゃんと無理せずバイトしてきましたよ?」

「うん、でも念のため」

そう言って、彼はスリッパに履き替えながらキッチンへ近づいてきた。
雪乃の手元を見て、ふと眉を下げる。

「立ちっぱなしじゃ疲れたでしょ。まだ回復途中なんだから、そんなに頑張らなくていいのに」

「でも動いてる方が元気出るんです。あと、これは感謝のごはん」

「……ほんと、頑張りすぎるのが雪乃らしいけど」

そう呟くと、大雅はふいに後ろからそっと雪乃の肩に手を置いた。
それだけでなく、少しだけ身体を寄せ、彼女の髪に鼻先を近づける。

「ん、唐揚げの匂いだけじゃない。お弁当屋の、あの中華サラダの香りもする。……もしかして、もらってきた?」

「はい、おばあちゃんが“好きでしょ”って言ってくれて……」

「正解。俺、あれ好きなんだよね。……さすがだな、雪乃」

ぽつりとそう言って、彼は雪乃の頭を優しく撫でた。
それがあまりにも自然で、雪乃は思わず苦笑する。

「先生、っていうか、大雅さん。ちょっと過保護すぎません?」

「うん。知ってる。でも、甘やかしたい人が目の前にいるから仕方ない」

真顔でそんなことを言う彼に、雪乃は少しだけ肩をすくめて笑った。

「じゃあ、ちゃんと座って待っててください。すぐ準備しますから」

「……じゃあ、“ご飯できたよ”って呼んでね」

まるで誰かの家に遊びに来た恋人のような、そんな甘えた口調に、雪乃は小さく息をつく。

「……ほんとに、大雅さんってこういうとこ、ずるいんだから」

「名前で呼ばせたのは、そっちでしょ?」

と言いながら、大雅は雪乃の頬を指先でそっと撫でた。
照れくさいのに、心がほんのりあたたかくなる。
そんな夕暮れの、静かで穏やかな時間だった。