過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

昼が近づくと、店内は少しずつ慌ただしさを増していった。
出前の注文が入り、常連客がちらほらとカウンターに現れ始める。

厨房からはごま油の香りが立ちのぼり、揚げたてのコロッケや卵焼きが手際よく詰められていく。

「雪乃ちゃん、これ持ってってくれる? A弁当の並盛、ふたつ」

「はい、すぐに」

久しぶりの接客に少し緊張しながらも、雪乃は笑顔を絶やさずに注文を渡していく。
レジの横で代金を受け取ると、年配の女性客がふと目を細めて言った。

「久しぶりに見たと思ったら、やっぱり雪乃ちゃんじゃない。元気そうでよかったわねぇ」

「ありがとうございます。ご心配おかけしました」

ぺこりと頭を下げた雪乃に、女性はにっこりと笑って「無理しないでね」と声をかけてくれた。
そんな言葉のひとつひとつが、雪乃の胸に沁みていく。

厨房の奥からは、おばあちゃんの声が飛ぶ。

「雪乃ちゃん、おにぎりパック追加でお願いね。午後の分も仕込んじゃおうか」

「了解です!」

手際よく動きながら、雪乃は気づけば自然に笑っていた。
周囲の気遣いや、ここで過ごす時間が少しずつ、心の奥に溜まっていた重さを溶かしていくようだった。

おじいちゃんはというと、配達前の荷物を車に積みながら雪乃に向かって親指を立てた。

「戻ってきてくれて助かったよ。やっぱり雪乃ちゃんがいると、仕事が早いな」

「……ありがとうございます。でも無理せず、少しずつ頑張りますから」

「それでいい、それでいい」

昼のピークが落ち着き、湯呑みに注がれたお茶の湯気がほっと揺れるころ。

「大丈夫そう? ちょっと座って一服しようか」

おばあちゃんのその一言に、雪乃は素直に頷いた。
休憩用の椅子に腰かけ、あたたかいお茶を受け取りながら、心も体もじんわりと解けていくのを感じる。

ここには無理をしなくていい居場所がある。
誰かに遠慮するでも、張りつめて立ち続ける必要もない。

「……やっぱり、戻ってきてよかったな」

そう、自然と思える午後の陽射しが、窓の向こうからそっと雪乃を照らしていた。