過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

開店からしばらく。
まだ本格的な混雑には程遠い時間帯。

雪乃は、同伴出勤してきた人気キャストのヘルプについていた。
愛想笑いを貼りつけて、相づちを打ち、
酒を作りながらも頭の中はぼんやりとしている。

解熱剤のおかげで熱は少し下がった気もするが、
体の芯は重く、冷や汗が止まらない。

「ナナ、指名の客来たよ」

――篠原の声。

一瞬、聞き間違いかと思った。

「えっ……?」

篠原は眉をひそめて、カウンターの奥を顎で示す。

「昨日の客だよ。早く行って」

昨日の……?

視線を向ける。

そこに座っていたのは――

あの医者を名乗った男。神崎。

白シャツにジャケット。
相変わらず、浮いた雰囲気はまるでない。

無言で、水のグラスを指先で転がしている。

なんで?

ただの“変な客”だったはず。
話もろくにせず、酒も飲まず、勝手に人の脈を取って、勝手に診断めいたことを言って帰っていっただけ。

なのに、なぜ――

篠原に背を押されるようにして、雪乃は立ち上がる。

「……行きます」

足取りが、自然と慎重になる。
体調のせいもあるが、理由はそれだけじゃなかった。

何かを見透かされているようで、近づくのが怖い。

でも、仕事だ。

笑顔をつくって、席に近づく。

「こんばんは。また来てくださったんですね」

神崎は、相変わらず目を合わせない。
ただ、ぼそりと低く言った。

「……ちゃんと来たか」

その言葉の意味がわからず、雪乃はわずかに眉をひそめた。

なんなの、この人。

でも、不思議と――少しだけ、心がざわついた。