バスルームのドアが静かに開いた。
ふわりと湯気が広がり、柔らかな石けんの香りが室内に滲む。
雪乃はバスタオルで髪をまとめながら、リビングへと戻ってきた。
ゆったりとした部屋着に着替えた姿は、病院での緊張感を脱いだぶん、少しあどけなさすら感じさせる。
神崎はソファで読書をしていたが、その気配に気づいて顔を上げた。
「おかえり。のぼせてない?」
「うん、大丈夫。……気持ちよかった」
雪乃がそう答えると、神崎はそっと笑った。
「それならよかった。……ほら、冷たいお茶。体があたたまった後だから、少しだけね」
差し出されたグラスには、冷たい麦茶が注がれていた。
受け取った雪乃は、「ありがと」と小さな声で言いながら、ひと口飲む。
湯上がりの頬に、ほんのり熱が残っている。
その様子を見つめながら、神崎はぽつりと呟くように言った。
「……雪乃、なんか柔らかい顔してる」
「え?」
「さっきまでより、もっと……安心してる顔。たぶん、初めて見るかも」
雪乃は一瞬きょとんとしてから、恥ずかしそうにうつむいた。
「そうかも。……なんか、今すごく落ち着いてて」
「うん、伝わってくる」
神崎の声は低く、静かで。
雪乃の心に優しく沁み込むようだった。
ふたりはそのままソファに並んで座り、静かな時間を過ごす。
テレビも音楽もつけず、窓の外に流れる夜の気配を感じながら、言葉少なに寄り添っていた。
「……こういう時間、いいですね」
雪乃がぽつりと言った。
神崎はゆっくり頷いてから、少し体を傾けて、彼女の髪にそっと手を伸ばす。
タオルで半分乾いた髪を、やさしく指ですくいながら言った。
「こういう時間が、これからも続けばいいって思ってる」
雪乃はその言葉に小さく目を見開き、すぐに、笑った。
穏やかで、あたたかくて、胸の奥にぽっと灯るような笑顔だった。
「……わたしも」
言葉は少なくても、伝わる。
この静けさの中には、どれだけの想いが交わされているだろう。
やがて神崎は、もう一度だけ雪乃の髪を撫でたあと、そっと肩を抱いた。
その温もりに、雪乃は抵抗することなく、静かにもたれかかる。
心地よい夜。
互いの鼓動が、ゆっくりと、同じリズムを刻み始めていた。
ふわりと湯気が広がり、柔らかな石けんの香りが室内に滲む。
雪乃はバスタオルで髪をまとめながら、リビングへと戻ってきた。
ゆったりとした部屋着に着替えた姿は、病院での緊張感を脱いだぶん、少しあどけなさすら感じさせる。
神崎はソファで読書をしていたが、その気配に気づいて顔を上げた。
「おかえり。のぼせてない?」
「うん、大丈夫。……気持ちよかった」
雪乃がそう答えると、神崎はそっと笑った。
「それならよかった。……ほら、冷たいお茶。体があたたまった後だから、少しだけね」
差し出されたグラスには、冷たい麦茶が注がれていた。
受け取った雪乃は、「ありがと」と小さな声で言いながら、ひと口飲む。
湯上がりの頬に、ほんのり熱が残っている。
その様子を見つめながら、神崎はぽつりと呟くように言った。
「……雪乃、なんか柔らかい顔してる」
「え?」
「さっきまでより、もっと……安心してる顔。たぶん、初めて見るかも」
雪乃は一瞬きょとんとしてから、恥ずかしそうにうつむいた。
「そうかも。……なんか、今すごく落ち着いてて」
「うん、伝わってくる」
神崎の声は低く、静かで。
雪乃の心に優しく沁み込むようだった。
ふたりはそのままソファに並んで座り、静かな時間を過ごす。
テレビも音楽もつけず、窓の外に流れる夜の気配を感じながら、言葉少なに寄り添っていた。
「……こういう時間、いいですね」
雪乃がぽつりと言った。
神崎はゆっくり頷いてから、少し体を傾けて、彼女の髪にそっと手を伸ばす。
タオルで半分乾いた髪を、やさしく指ですくいながら言った。
「こういう時間が、これからも続けばいいって思ってる」
雪乃はその言葉に小さく目を見開き、すぐに、笑った。
穏やかで、あたたかくて、胸の奥にぽっと灯るような笑顔だった。
「……わたしも」
言葉は少なくても、伝わる。
この静けさの中には、どれだけの想いが交わされているだろう。
やがて神崎は、もう一度だけ雪乃の髪を撫でたあと、そっと肩を抱いた。
その温もりに、雪乃は抵抗することなく、静かにもたれかかる。
心地よい夜。
互いの鼓動が、ゆっくりと、同じリズムを刻み始めていた。



