ソファでくつろぐうちに、ふたりの間にはゆるやかな静けさが流れていた。
時計の針がゆっくりと昼に近づいていく頃、神崎が口を開いた。

「もう少しで昼時だけど、ご飯食べれそう?……実は、冷蔵庫空っぽなんだよね。病院で寝起きしてたから。ある患者さんのために」

どこか含みを持たせるように笑う神崎の言葉に、雪乃は「あ……ごめ……」と反射的に口にしかけた。

けれど、その唇にそっと人差し指を当てられる。

「禁止でしょ」

静かに、けれど確かに。優しさと、雪乃への思いが込められた声だった。

雪乃は、はにかむように笑って、
「ありがとう」
と、言い直した。

神崎は満足げに、「どういたしまして」と答えると、雪乃の頭をポンポンとやさしく撫でた。
その仕草がどこまでも自然で、安心が胸に広がっていく。

少し間を置いて、雪乃がふっと思いついたように提案する。

「食欲あるから、外で食べて、その後……買い物しましょうか」

神崎は微笑みながら、
「わかった。そうしよう」
と頷いた。

その声が、まるで「一緒にいるのが当然」と言ってくれているようで、雪乃の胸があたたかくなる。