過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

タクシーの中。
静かに走る車内で、窓の外に流れていく街並みに、雪乃は黙って視線を落としていた。
神妙な顔をして、膝の上で手をぎゅっと組みしめている。

そんな雪乃の様子を見た神崎が、ふっとやわらかく声をかけた。
「うち、病院から徒歩5分くらいのとこだから。少し時間かかるけど、近くにいろんなお店あるんだ。一旦帰って落ち着いたら、足りないものとか買いに行こうか」

雪乃はその言葉に、顔を上げることなくぽつりと呟いた。
「……ごめんなさい」

神崎は即座に首を振った。
「謝るの、禁止ね。今から」

その一言に、雪乃は驚いたように神崎を見る。
瞳が揺れている。まるで、初めて誰かに許された子どものように。

神崎はその視線を真っすぐに受け止め、やさしく語りかけた。
「謝らなくていいの。雪乃が我慢せずに、安心して暮らすのが……俺の一番の願いなんだから」
そして少し微笑んで、「わかった?」と問いかけた。

雪乃はしばらく神崎を見つめたまま、唇をかすかに震わせ、
「……ありがとう」と答えた。

そして、ようやく、小さく微笑んだ。

タクシーはゆっくりと進み、夕暮れの街の中を抜けていった。
2人を、静かに、あたたかい場所へと運んでいく。