過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

インターホンのチャイムの音で、意識が引き戻された。

寝ていた、のかもしれない。
浅くて、苦しい、眠り。

チャイムは鳴り止まない。
数秒後には――

ドンドンッ!!

玄関のドアが、強く叩かれた。
反射的に、体がびくりと跳ねる。

無視する。
目を閉じる。

それでも――

「雪乃! 早く金よこせ!!」

野太い、怒鳴り声が廊下に響いた。
壁が薄いこのアパートでは、きっと他の部屋にも聞こえている。

(……まただ。)

以前も、父が家の前で暴れて通報されたことがあった。
あのときも、大家や近隣に頭を下げてまわった。

(また騒がれたら、もう住めなくなるかもしれない。)

ため息のような呼吸を吐いて、ゆっくりとベッドから起き上がる。
足が重い。
胸も、ざわざわと音を立てていた。

玄関の前に立ち、チェーンを外す。

静かにドアを開けると、
そこにいた父が、開くなり手を伸ばして――

「なんで早く開けないんだ!」

そう言って、雪乃の胸をドンとこづいた。

その瞬間――

心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

一歩後ずさり、体を抱えるようにして立ちすくむ。

(やめて、ほんとにやめて……)

無言で部屋に戻り、財布を取り出す。

手のひらに残っていた現金は、
ぎりぎり三万円。

「……三万しかない。これで我慢して。」

差し出すと、父は鼻で笑った。

「まあ、しゃあないな。今日は勝てるかな〜。」

足早に階段を降りていく父の背中が、
あまりに軽く、何も背負っていないように見えて――

雪乃は、その場から動けなかった。

呼吸が、うまくできない。
心臓の音だけが、やけに耳に残っていた。