過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

午前中、雪乃は検査室をいくつも回った。
採血、心臓のエコー、腹部のエコー。
ベッドの上に横たわるたび、隣には神崎がいた。

「ちょっと冷たいよ」と技師が声をかけると、神崎が「冷たさに文句言う元気があるなら大丈夫」と冗談を言い、彼女の緊張を和らげてくれる。

終わった後、雪乃が検査着の上から自分の手を握ると、心の中で
(終わった、ちゃんと終えられた)
とそっとつぶやいた。



夕方、病室の扉がノックもなくそっと開いた。
神崎が、タブレット端末を片手に入ってくる。

「結果、出たよ」

一瞬、空気が止まったように感じた。
雪乃の指先がわずかに震える。

「全部、良好。
CRPもほぼ正常値、心エコーに感染の兆候なし。弁にも影はない。腹部エコーでも脾臓の出血は完全に止まってて、萎縮と瘢痕化が進んでる」

「……本当に?」

「うん。感染性心内膜炎も、脾損傷も、ちゃんと乗り越えた」

その瞬間、雪乃の中で緊張の糸が、静かにほどけていった。
気がつけば、神崎の前でポロポロと涙がこぼれていた。

「……なんか、信じられなくて。あんなに苦しかったのに、ちゃんと終わったんだなって思ったら」

「終わった、じゃなくて、“よくここまで来た”だよ。
――ちゃんと、自分の身体にありがとうって言ってあげて」

神崎の声は、あくまでも穏やかだった。

けれどそのまなざしは、彼がどれほど雪乃の命に心を砕いてきたかを、雄弁に物語っていた。

「俺にとっても、特別な患者さんだった。……これからも、ね」

雪乃はうなずき、そしてそっと手を伸ばす。
神崎の白衣の袖口を、弱く、でも確かに掴んだ。

彼は何も言わず、その手に自分の手を添える。

病室の外では、春の夕陽がゆっくりと傾き始めていた。