夕方、雪乃の病室。

岸本は椅子に腰を下ろすと、静かに切り出した。

「雪乃さん、改めてご報告です。あなたの話を受けて、私たち病院側は、警察に正式に通報することを決めました」

雪乃は小さくうなずいた。もう迷いはなかった。

「それと、念のため、今後お父様が直接この病院に来ることがないよう、出入りの制限もかけます。万が一来院された場合は警備と連携して対応しますので、安心してください」

「……ありがとうございます」

「また、退院後の住まいや生活支援についても、いくつか候補があります。今、福祉とつないでいる最中なので、後日改めて一緒に検討しましょう」

「……はい」

「これからは、自分のために選んでいいの。自分が笑えるほう、安心できるほうを選んで」

岸本のその言葉に、雪乃の目が潤む。

「……私、ちゃんと生きたいです。誰かの期待じゃなく、自分の人生を……神崎先生に助けられた命、無駄にしたくない」

岸本はその言葉に目を細めてうなずく。

「その気持ちがあれば大丈夫。大丈夫よ、雪乃さん。あなたはもう、自分の人生を歩き始めてる」

その日、岸本は病室を出たあと、ナースステーションで神崎に短く報告を入れる。

「手続き、すべて済ませました。生活支援の方向も、雪乃さんが前向きに考えてくれています。……神崎先生のおかげですよ」

神崎は何も言わず、小さく頷いた。
その頷きに、深く静かな感情が宿っていた。