数日後の午後。
岸本は、院内の相談室で一通の書類を見つめていた。
雪乃の同意書。
そして、彼女が語った経緯を記録した報告書。
これをもって、病院は正式に警察への通報に踏み切る。

「……父親からの保護が最優先。万が一に備えて、連絡先も遮断する方向で調整をお願いしたいです」

岸本はナースステーションで神崎と短く打ち合わせを済ませ、看護師長とも連携を取る。

「警察への通報は私のほうで責任を持って進めます。雪乃さんには今後の流れも説明しますので、安心してもらえるようにフォローをお願いします」

神崎は黙って頷いた。
それは、医師としての判断というより、今では“彼女の味方としての立場”での頷きだった。