過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

「夢なら……このまま、もうちょっと続いてほしいな」

その言葉のあと、しばし静寂が降りた。

そんな室内の空気が、ほんのり廊下にも漏れ出していた。

病室のドアは、ぴたりと閉じきってはいなかった。
少しだけ開いた隙間から、やわらかな声が聞こえてきていた。

「……まったく、ロマンチックな先生ね」

そう小さく呟いて、遠藤はふっと笑う。

両手には、雪乃の洗濯物と差し入れのプリン。
本当はもう少ししてから訪ねるつもりだったけれど、扉の向こうから聞こえた神崎の声に、つい足を止めてしまったのだ。

(でも、よかった……本当に)

ICUに運ばれたあの日を思い出す。
ベッドの上でぐったりしていた雪乃の姿。
必死に処置する神崎の顔。

あの光景が嘘のように、今は穏やかな時間が流れている。

(無事で、そして……ちゃんと伝えられて)

遠藤は、そっとドアの隙間から声を潜めるようにして一歩下がった。
中の空気を壊さないように、彼女らしい気遣いで。

「……少ししてからまた来ようかな」

そう呟いて、今度は病室の前にそっと「また後で来ますね」のメモを残す。
その文字は、どこか柔らかく、そして祝福するような優しさに満ちていた。