過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

カーテンが閉まり、部屋の中がほんの少し静かになった。

病院という空間に違いはないはずなのに、雪乃はどこか呼吸がしやすくなった気がした。
ICUとは違う、安心できる場所。
そして今、その隣には神崎がいる。

神崎は点滴の確認を終えると、ベッドのそばに腰を下ろした。

「……苦しくないか?」

雪乃は小さく首を振る。

「少し、眠ったから……」

「そっか」

神崎の目は優しく細められていて、彼の表情を見ていると、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

「……ごめんなさい」

「え?」

「何も言わずに、行って……先生に、心配ばかりさせて」

神崎は一瞬言葉を探すように黙ったあと、そっと息を吐いた。

「……正直に言えば、心配はした。でも、それ以上に、無事でよかったって思ってる」

その声音には、怒りも責めもなかった。

「生きて戻ってきてくれた。それだけで、俺は十分だ」

ぽつり、と落ちたその言葉に、雪乃のまぶたが震える。

「先生……」

「……無理はするな。でも、もしまた何かあったら……今度は、ちゃんと俺に頼ってくれ」

「……はい」

返事をしながら、雪乃はそっと右手を動かして、シーツの上に置いた神崎の手の近くへと触れた。
完全に握るわけでもなく、でも、少しでも近づきたくて。

神崎はその小さな仕草に気づくと、ためらうように一度まばたきしてから、雪乃の指に自分の手を重ねた。

「……助けたいと思ったんだ。医者としてじゃなくて、俺個人として」

その言葉が、ずっと耳の奥に残っていた。

「……そんなふうに思ってもらえるなんて、夢みたいです」

雪乃が言うと、神崎は少しだけ視線をそらして、照れたように小さく笑った。

「夢なら……このまま、もうちょっと続いてほしいな」

沈黙が落ちた。

でも、それは気まずさではなく、互いの気持ちを確かめ合うための、やさしい間だった。

窓の外からは、夕暮れの淡い光が差し込んでいた。
その柔らかなオレンジが、2人の指先を静かに包み込んでいた。