過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

神崎が雪乃の額にそっと手を当て、彼女が穏やかな呼吸を始めたのを確認すると、ゆっくりと手を引いた。

そのまま無言でベッド脇に立ち尽くしていたが、やがて病室の扉の方へと視線を向ける。

扉の外には、待っていたように滝川が立っていた。

「落ち着いたみたいですね」
「……ああ」

2人は小さく頷き合いながら、病室の前を少し離れて並んで歩き出す。
廊下の窓際で立ち止まると、滝川が手元の電子カルテを開いた。

「CTの所見、脾の被膜下血腫。グレードはII。幸い、出血は止まってる。今のところは保存的加療で経過観察」

「内膜炎の治療と並行できそうですか?」

神崎の問いに、滝川はわずかに眉をひそめながらも、肯定するようにうなずいた。

「抗菌薬は継続可能。循環動態が安定してるうちは、ICU管理下で両立できる。ただし……感染と出血、両方のリスクは高い。こっちも慎重に見ていく」

神崎は黙って聞いていたが、やがて低く息を吐き、目を伏せた。

「……彼女は自分で背負いすぎたんだ。気づけなかったのは、僕のミスです」

滝川はその言葉に、少しだけ口角を持ち上げる。

「まあ、君がそう言うってことは、それだけ大事な患者ってことだな」

「……はい。患者としても、人としても」

素直すぎる神崎の返答に、滝川は小さく吹き出した。

「君がそこまで言うとはな。珍しい」

神崎はその言葉に、照れたように眉を寄せ、黙って窓の外を見つめた。

「とにかく、脾損傷に関しては今後48時間が山場。腹膜刺激症状が出たら、すぐに再評価。内膜炎の抗菌薬も血中濃度を見ながら調整をかけていく。指示は君が主治医としてまとめてくれ」

「……ありがとうございます。よろしくお願いします」

医師としての会話は、そこで一旦終わった。
だが神崎の胸の奥では、医師以上の想いが、まだ熱を帯びていた。

ふたたび、雪乃の病室を振り返った神崎の目には、決意の色が強く宿っていた。