過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

ICUの朝は、静かに訪れた。

規則的に鳴るモニター音と、看護師の足音だけが響くガラス張りの個室。

その中で、雪乃はわずかに指を動かした。

まぶたが震え、ゆっくりと開かれる。

視界はぼやけていたが、最初に映ったのは、見慣れた白衣の人影。
イスに腰掛け、腕を組んで俯いている。

「……せんせい……」

かすれた声だった。
それでも、その呼びかけに神崎はすぐ反応した。
顔を上げ、椅子を引き寄せるようにしてベッドのそばに来た。

「雪乃……! わかる?」

「……はい……先生」

涙がにじみそうになるのを、神崎はなんとか堪えた。
彼女が意識を取り戻した。
それだけで十分だった。

「……よかった、本当によかった。ずっと呼びかけてたんだぞ」

雪乃は弱々しく、でも少し照れたように微笑んだ。

「……また迷惑かけました……」

神崎は一瞬目を閉じ、深く息をつくと、雪乃の手をそっと包んだ。

「……雪乃。何があったのか、全部話さなくていい。でも、これ以上、一人で何とかしようとするな。俺たちは、君を助けるためにいるんだ」

雪乃の目尻から、涙が一粒こぼれた。

「……先生に、笑っててほしかったんです。だから……大丈夫って、言いたかったのに……」

「それ、俺が言いたいセリフだよ」

神崎はそっと微笑む。
彼女の手を握る力が、少しだけ強くなった。

「もう大丈夫ですか……?」

「バイタルは落ち着いてる。CTの結果から見ても、今は手術はせずに経過を見る段階。命の危険は乗り越えた。よく頑張ったな、雪乃」

その言葉に、雪乃は安心したようにまぶたを閉じた。

神崎はゆっくりと、彼女の額に手を当てる。

「……ゆっくり休め。今度はもう、何があっても俺が気づくから」